市民の意志・共和党、民主新社会党、民主党による「三角同盟」をめぐって(2003年06月09日)

市民の意志・共和党と民主新社会党の統一問題、および、民主新社会党と民主党による「祖国・民主同盟」結成については、以前に論評したが、今度は、市民の意志・共和党と民主党による「協力協定тYншлэл гэрээ」締結の結果生まれる、「三角同盟」(ブリッジ共闘)問題が浮上してきた。今回はこの間の事情を論評しよう。

市民の意志・共和党(2002年12月22日結党)は、2003年06月08日、国民保養施設テレルジで、臨時国民委員会(同党最高意思決定機関)を開き、2002年8月に結んだ民主党との「協力協定」を承認した。

ただ、この委員会で、市民の意志・共和党副党首で、旧共和党党首ジャルガルサイハン(ボヤン社社長)は、この「協力協定」の承認に反対し、市民の意志・共和党からの離脱を宣言した(ウヌードゥル新聞2003年06月10付、およびゾーニー・メデー新聞2003年06月10日付)。

3月9日、オヨンが記者会見(12時)を終えて2時間後、ジャルガルサイハンは記者会見を行った。その席上、「オヨンには敬意を払っている。しかし、取り巻きが悪い」、「左派社会民主党が右派民族民主党と、次に左派民主新社会党が右派民主党と統一する、これをワンタン(ごちゃ混ぜ【野合の意】)という」、「負債のない国家、国民はない」、「対丸紅債務3000万ドルは、1800万ドルが免除、残りの1200万ドルを5〜8年で返済することで合意している」、と述べた(ゾーニー・メデー新聞2003年06月10日付)。

一方、それに先だって、市民の意志・共和党党首オヨンが記者会見を行った。その席上、彼女は、「ジャルガルサイハンら少数の人が『協力協定』を支持しない、として退席した。(そこで)民主主義の原則に従って多数決(67%の賛成)で決定した」、「ジャルガルサイハンの立場は、第三の政治勢力があるべきである、決定は拙速すぎると主張していた」、「ジャルガルサイハンは、2003年から党政治局に党費を払っていない」、「ジャルガルサイハンが財政を支えているという誤った理解がある」、「『協力協定』というのは三党が一つになるということではない」、「旧共和党の『オヨニ・オンドラー』社社長С.オトゴンバヤルや元法務相ツォグは離脱しないで残った」、「第三党は必要である、という考えは変わらないが、モンゴルに安定した議会制度が必要であるという見地から民主党との同盟に踏み切った」、と述べていた(ウヌードゥル新聞2003年06月10日付)。

ウヌードゥル新聞(2003年06月12付)は、「ジャルガルサイハンには「丸紅」負債があるから、人民革命党に敵対することをためらう」、「旧共和党のグループは離脱に反対している」、「ビジネスマンがワンマン経営の感覚と自分の利得のために政治を行う傾向は、最近、政治をゆがめる原因となっている」、と論評して、ジャルガルサイハンの今回の行動には批判的である。

それでも、このやりとりを見ていると、普段は、「汚職追放」、「土地私有法反対」、「環境汚染反対」など、クリーンなイメージが強いオヨンの歯切れが悪い。一方、ジャルガルサイハンの主張には首尾一貫性がある(自身の経済的意図は別にして)、といわざるを得ない。

この一見、「どたばた劇」の様相が強い、一連の出来事の背景を分析しよう。この発端は、人民革命党がもっとも警戒する民主新社会党つぶしをねらって、資金面から切り崩しをねらった、と思われる。人民革命党エンフバヤル政権は、民主党はそれほど自身には手強い相手ではない、と考えている。元来、エンフバヤル政権は、国際援助機関、とりわけIMFによるプランを継承せざるを得ない上に、選挙が2004年に行われることを意識して、「自由」の意味を、「ほしいまま」と考えている、若年層の支持がほしい。そこで、その考えを中心に据えている民主党のかつての政策を、2000年に政権に返り咲いて以来、エンフバヤル政権は採り入れてきた(民主同盟連合エンフサイハン政権の経済顧問だった、Ж.バトホヤグは、若干言い訳じみてはいるが、実際そのように証言している。「地下経済について;公的部門の圧迫が地下経済の栄える原因となっている」、ウヌードゥル新聞2003年06月10日付参照)。その典型例が「土地所有法」採決である。実際のところ、民主党の人気はじり貧である。

一方、民主新社会党は、政府の強力な施策によって社会発展を図る、というかつてのモンゴルの伝統的政策を党是としている。だから、高年層、旧人民革命党党官僚などに支持者が多い。元来、人民革命党の党員にはそういった考えが根強く残っている。であるから、そのままほっておくと、支持者が人民革命党から民主新社会党へ流れる可能性もある。

民主新社会党の財政は、エレル社を基盤にしている。エレル社は、金鉱業から出発した企業である。ここの糧道を絶てばいい。そこで、人民革命党政権は、金売却から得られる所得に課税することにした。一方、民主新社会党は、金売却(モンゴル国立銀行にその売却が義務づけられている)に係る所得への課税は憲法違反である、として反対している。いずれにしろ、そういったわけで、エルデネバトの民主新社会党の財政が苦しくなっている。人民革命党のねらい通り、というわけだ(追補:ゾーニー・メデー新聞[2003年06月18日付]は、エンフバヤル寄りといわれているが、脱税者名簿の一部を公開した。そのほとんどがエレル社で占められている。これは、エルデネバトにはかなりの打撃になるだろう。2003.06.20)

次にねらったのが、オヨンつぶしであったろう。市民の意志・共和党の中で、И.ダシニャムは、法律学の専門家で、自分の経営する「ウランバートル知識研究大学」には、憲法裁判所長官のジャンツァンなどを教官スタッフに抱えており、人民革命党に近い。彼らが中心になって、市民の意志・共和党と民主新社会党の統一を仕掛けた。そして、エルデネバトを党首にすることによって、市民の意志・共和党党首オヨンの名声を減じようとした。

ここまでは、人民革命党の筋書き通りだった。

ところが、民主党党首に選出されたエンフサイハンは、かつての1996年国家大ホラル(国会)選挙時の選挙対策委員長を務め、大方の予想を覆して、民主同盟連合政権勝利を導いた。その最大の基礎となったのが、米国からの資金援助だった。今回は、英国保守党からの資金援助を得て、民主党の財政事情は今のところかなり潤沢である。元来、自身の政策をほとんど人民革命党に採用され、その存在意義が薄れている。であるから、政策的には、かつてのサッチャー路線、レーガノミクスといった、いささかモンゴルの伝統には合致しない政策(もっともこの政策が同党のイデオロギーに最も近い)を採用しないわけにはいかない。これをネオ資本主義とよぼう。

そこで資金が潤沢な民主党エンフサイハン執行部は、窮状著しい、民主新社会党との「祖国・民主同盟」をエルデネバトに持ちかけ、成功した。

エンフサイハンは、さらに調子に乗って、エンフバヤル政権の法務内務相ニャムドルジ・スパイ疑惑問題を持ち込み、墓穴を掘った(ウヌードゥル新聞2003年06月07日付など参照)。

この間、オヨンは、自身の政治信条に違背してまで、民主党との提携に乗った。これは、政治的自殺に等しい。オヨンはこのことに早く気づくべきである。(2003.06.16)

(追補)一方、民主党側も、2003年6月25日、執行評議会を開催し、「三角同盟」協議のための作業班を任命した。メンバーは、ゴンチクドルジ(座長)、ガンスフ、ツァガーン、ムンフバト、Н.バトバヤルである(ウヌードゥル新聞2003年06月26日付)。野党側も動き出した。(2003.06.29)

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