市民の意志・共和党、祖国・民主新社会党が統一の動き(2003年01月16日)

ウヌードゥル新聞(2003年01月16日付)、およびゾーニー・メデー新聞(2003年01月17日付)によると、「市民の意志・共和党」と「祖国・民主新社会党」は、統一に向けての協議を行っている、という。

「市民の意志・共和党」は、С.オヨン率いる「市民の意志党」、ボヤン社のジャガーことБ.ジャルガルサイハン率いる「共和党」、Л.ダシニャム率いる「モンゴルのための党」が2002年に統一してできた政党で、国家大ホラル(国会)に一議席を占めている。

「祖国・民主新社会党」は、エレル社社長Б.エルデネバト率いる「民主新社会党」に、2002年国会選挙時「祖国連合」として選挙共闘を行った諸政党がそのまま合党したもので、国家大ホラル(国会)に一議席を占める。

これら両党が統一に向け、「市民の意志・共和党」は昨年(2002年)10月に、「祖国・民主新社会党」はそれを受け今週(2003年1月)に、それぞれ党内協議に入っている、というわけだ。

上記両新聞は、バガバンディ大統領寄り、エンフバヤル首相寄り、という、それぞれ色合いを異にしているが、そこからおもしろい結論が引き出せそうなのであるが、それは後述するとして、両新聞とも、その困難性を指摘している。

まず、新党結成後の党首選び、指導部の構成で、対立があるという。エルデネバトかオヨンか、50%対50%(「市民の意志・共和党」の主張)か60%対40%(「祖国・民主新社会党」の主張)か、という対立である。

両党ともそれぞれ政治的基盤や資金面で、長所と短所をもつ。「市民の意志・共和党」は都市知識人・学生に根強い支持基盤があり、オヨンは世論調査で10%以上の支持を受ける。一方、「祖国・民主新社会党」は1980年代までの人民革命党出身旧官僚および地方に強力な党基盤をもつ。前者は、資金力は弱い。それを補うべく、ジャルガルサイハンの「共和党」と主張の相違を「越えて(?)」統一したが、ジャルガルサイハンは、日本の丸紅から受けた融資の未返済で、ロンドンで訴追されて、資金援助どころではない。後者は、エレル社社長の資金力で、西部地方に自力で水力発電所を建設しようとしていたほどで、資金力はあると見ていい(負債をかかえているとも言われているが)。両党がそれぞれ長所・短所補えばいいのだが、なかなかそうはいくわけがない。それが指導部の構成をめぐっての対立に現れているわけである。

次に、この新党結成の動きは、「市民の意志・共和党」の副党首С.オトゴンバヤル、前書記長Л.ツォグ、前「モンゴルのための党」党首Л.ダシニャム(2001年大統領選挙候補者)たちが、「祖国・民主新社会党」に持ちかけて、エルデネバトを党首にすることによって、オヨンを排除しようとしたものであるという。特に、これをとらえてゾーニー・メデー新聞は、この動きは政治的ショーにすぎず、統一はできない、と述べている。

この指摘は、筆者の見るところ、あまり意味がないようだ。オヨンであろうとエルデネバトであろうと、どちらが党首になっても、一方がそれで政治生命がなくなるわけではない。オヨンの兄ゾリグが民主同盟政権で排除されていたことを連想させるが、暗殺されない限り(全くないとは言い切れないが、そうすればこの兄妹は、例のアメリカの兄弟政治家のようになってしまう。その意味でもアメリカ化しては絶対いけない)、ゾリグが最終的には首相に推薦されたように(それが暗殺の原因だと言われているが)、政治力は維持できる。

だから、この統一の動きを政治家達の個人的野心の範囲でとらえては、モンゴルの抱える問題は見えてこない。

現代モンゴルの政治勢力の対立軸は、国際経済機関によって計画された資本主義化によって、国際資本に従属し、経済的(政治的)従属、腐敗・倫理の堕落、貧富の差の拡大、環境汚染、モンゴル的伝統の喪失、などを招くか、それを拒否するか(あるいは、その速度を遅らせ、先進本主義国との改革のための連携を推進するか)、という点で見るとよかろう。

この対立軸を考える具体例が、「土地所有法」(2002年6月27日成立)をめぐる各党の動きであった。この「土地所有法」施行は、1990年代に推進されてきた民営化の最終段階に位置づけられる(正確に言えば、NICやゴビ社など基幹産業の民営化と同段階に)。「人民革命党」は、かつて反対の姿勢を突如変換し、賛成・成立させた。民主党は反対の立場をとるが、土地所有に反対しているのではなく、そのやり方を富裕層に有利に運用させようとするために、反対している。一方、「市民の意志・共和党」は、ダシニャム、オヨンとも反対している。「祖国・民主新社会党」は、エルデネバトが反対の態度をとっている。

もっとも、モンゴルの政治勢力配置は、まだ、それほど明確なものではない。だが、歴史が進むにつれ、上記の流れが顕在化すると思われる。

現在の人民革命党が最も政治的に恐れているのは、民主党ではない。支持基盤が競合する「祖国・新社会党」である。この政党に、「市民の意志・共和党」が加われば、オヨンの人気度・政治的クリーン度、プラス、エルデネバトの資金面(多少問題あるが)で、モンゴル政治史に一つの大きな流れが形成されることになろう。だから、それを懸念する、人民革命党エンフバヤル政権寄りのゾーニー・メデー新聞は、最も強く、この統一の動きを否定的に描こうとするのである。(2003.01.20)

(追補)その後、両党統一の動きは遅々として進まず、その間隙を縫って、新しく民主党の新党首になったエンフサイハンは、英保守党の資金援助を得て、民主新社会党との提携を企てた。2回にわたるエルデネバト、エンフサイハン会談(奇なることに彼らが直に会談するのはこれが初めてであった。これは両者のイデオロギーの違いによるー後述)を経て、2003年04月26日、「祖国ー民主連合」が成立した。

これを仕掛けたのは、エンフサイハンであろう。というのは、エルデネバトの方は、市民の意志・共和党との統一の動きもあり、動きにくい。だが、2003年に入り、エルデネバトの実質的経営になる、エレル社(金鉱業が主)が所得税納入を巡って、政府と論争している。すなわち、金のモンゴル銀行への売却(これは義務づけられている)には、免税されるはずだ、というのがエレル社の言い分で、政府はそれを否定し、脱税の告発を行った。金価格低迷などのため、エレル社の経営状態が悪化していると推測される。

この間の事情を利用して、資金が比較的潤沢になった、民主党エンフサイハン執行部が、民主新社会党との選挙提携を持ちかけた。ウヌードゥル新聞(2003年05月02日付)は、民主党の党員数が18万人、民主新社会党の党員数が12万人、合計30万人という、新しい政治勢力が形成されるかもしれない、と述べているが、党員総数だけでは、選挙は戦えない。

元来、エルデネバトの民主新社会党は、社会民主主義に傾斜するエンフバヤルの人民革命党よりも、急進的なイデオロギーを有する政党である。一方、エンフサイハンの民主党は、英保守党からの資金提供受け入れからもわかるとおり、ネオ資本主義イデオロギーを持つ。両者は水と油の関係である。

早晩、分裂するというのが論理的結論であるが、モンゴルではどうか。いずれにせよ、これによって、民主新社会党支持者は幻滅して、人民革命党に回帰するかもしれない。(2003.05.03)

(追々補)もっとも、民主党寄りのウドゥリーン・ソニン新聞、民主新社会党機関紙モンゴリン・メデー新聞は、連日この「連合」支持キャンペーンを行っている。さらに、市民の意志・共和党書記長Ц.ガンホヤグは、民主党と民主新社会党の連合に賛意を表し、さらに、市民の意志・共和党と民主党とが、2002年8月に結んだ「協力協定тYншлэл гэрээ」は、2003年2月22日の同党国民委員会で、留保をつけることを決定したが、その効力は存続している、と表明している(ウヌードゥル新聞2003年05月20日付。なお、ウドゥリーン・ソニン新聞(2003年05月21日付)にも、同様の報道がある)。この事態が進めば、この「祖国ー民主連合」と市民の意志・共和党とのブリッジ共闘の可能性がでてくるが、事態はまだまだ流動的である。

一方、この「祖国ー民主連合」を牽制する動きも出てきている。国家大ホラル(国会)議員のД.ドンドグ(人民革命党)は、民主党と民主新社会党連合問題に関して、少数党は必要である、左(民主新社会党)と右(民主党)の政党が連合するのはおかしい、と述べている(ウドゥリーン・ソニン新聞2003年05月19日付)。また、人民革命党エンフバヤル政権は、丸紅からの1880万ドル負債を、旧共和党ジャルガルサイハンのために肩代わりすることによって(モンゴリン・メデー新聞2003年05月20日報道)、人民革命党への吸収、およびジャルガルサイハンを使って、市民の意志・共和党と人民革命党の連合を進めるかもしれない。

いずれにしろ、2004年の国家大ホラル(国会)議員選挙に向けて、様々な動きが今後出てくるだろう。(2003.05.21)

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