民主化運動13周年の日、トラクター5台がスフバートル広場に乗り入れた(2002年12月10日)

今から13年前、1989年12月10日、世界人権の日に、ゾリグたちは憲法で禁止されたデモ集会を行った。この日は、民主化運動の始まり、と認識され、民主党党首ドルリグジャブは、2002年12月10日、国民に呼びかけ、「20世紀のモンゴル人すべての生活に向上をもたらした、民主革命13周年記念を、国民とともに喜びを分かち合おう。....わが党(民主党)が(その遺志を)継承していく」(ウドゥリーン・ソニン新聞2002年12月10日付、なお、一部は意訳した)、と述べた。

筆者の意見では、もやは民主党は民主化運動の継承者ではないのだが、その気概は彼らにも保持していてほしい。

この日に符丁を合わせ、政治教育アカデミーと民主党共催で、「モンゴル民主主義の勝利と教訓」というシンポジウムが開かれ、ドルリグジャブ、ゴンチクドルジ、ビャンバスレン、オドンチメド、オヨン、タミル、ナランゲレルたちがあわせて22本の報告をした。

「勝利」は個人利得を図る汚職行為によって汚され、その「教訓」でいっぱいなのは確かである。問題は本人たちがその当事者である、ということで、「自己批判」とするほうが正確であろう。

さて、この日、12月08日08時30分、バト=ウールはトゥブ・アイマグのジャルガラント・ソム在住の5人のトラクター・メカニックを率いて、スフバートル広場に乗り入れた。「土地所有法のいくつかの条項の不法性を訴え、修正させるため」である、という(ウドゥリーン・ソニン新聞2002年12月11日付)。また、警察官達に、逮捕するならしてみろ、というような趣旨の発言をしたようだ。

バト=ウールの行動については、前にも論評したので、ここでは繰り返さない。ゾーニー・メデー新聞などは、激しく彼を非難している(2002年12月11日、および13日付参照)

ただ、今回の5人のトラクター・メカニックたちの行動には、「土地所有法」の問題点がいくつか浮き彫りになっている。

まず、彼らが、当該ソム住民代表評議会(地方[ソム]議会)議長に提出した、3項目の要望書には、(1)土地所有法の改定、(2)ソム住民への農地無料分与、(3)農場企業単位所有農地の分配、と書かれていた(ウドゥリーン・ソニン新聞2002年12月11日付)。

(1)については、この「土地所有法」そのものは大変おおざっぱなもので、その土地所有規模は、ウランバートルでは0.07ha、その他の地方では0.35(アイマグ中心地)ないし0.5ha(ソム中心地)、と記してあるだけで(土地所有第7条1項)、どの地域に誰が所有資格を持つか不明である。現実には、政府高官達が広大な地所を囲い込み、住宅を建設している。こうした土地がどうなるのか、といった規定が全くない。ソムの住民が不安になり、不満を抱くのは当然である。

(2)については、すべてのソム住民が農耕に従事しているわけではない。規定では、農業企業に農地を分与する、となっている。だが、筆者たちは、今年ヘンティー・アイマグ、ダルハン・ソムで調査したが、そこの文化センターの撮影技師は、0.002haほどの、青々とトマトやキュウリの葉っぱが映える農園を持っていたし、5年前、1997年に、スフバートル・アイマグの中心地バローン・オルトを訪れた時、そこに住む住民は、住宅民営化によって得た住宅のそばのほんの小さな土地で、野菜を栽培していた。彼らには、農地分与の資格があるのかないのか、同法では不明確である。

(3)の項目が最も議論を呼ぶところである。土地所有法原案では、モンゴル国民(現実には家族)に農耕地を分与するとなっていた(第4条1の1項および1の2項)が、国会審議の過程で、企業単位に農耕地分与、と修正された。この点がトラクター・デモ参加者の反対を呼んだ。この反対を受け、政府は、トラクター・メカニックに対し、何の権限もなしに、個人でも農地分与可能、と回答した。一方、ゴンガードルジ国家大ホラル(国会)自然環境地方開発委員長が、このデモへの対応を迫られ、セレンゲ・アイマグで土地所有法説明会を開催し、農地は企業に分与される、と説明している(ウヌードゥル新聞2002年12月10日付)。確かにそのように規定されてはいる。だが、前の回答との食い違いは明らかであろう。

元来、この企業単位に農耕地分与する、という規定については、2つの点が指摘されよう。第一に、前にも書いたが、政治指導者たち(およびその係累)がこうした企業単位を経営している例が多く、その土地をそのまま所有しようとする意図が明らかである。第二に、かつて、国営農場民営化によって、国営農場資産が切り刻まれ、結果として、農場の解体へと導かれてしまった。こうした経験をふまえての規定であろう。確かに、企業単位に農耕地を分与することによって、企業単位解体は回避できよう。だが、トラクター・メカニックたちは農業従事者ではないのか、といった問題が浮かびあがってくる。上に述べたように、彼らにも農業に従事しようとする気持はある。

このことは、民営化のもつ本質的な事態なのであって、また別の機会に論じなければならないだろう。何れにしろ、「土地所有法」の本質的性格はもっと別にあるのだが、表面をとっても、これだけ矛盾の多いものである。国会では、この法律の改定の動きもあるようだ。(2002.12.20)

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