
モンゴル経済はIMFの束縛から脱しているか(2002年10月11日)
П.オチルバト(前大統領)とР.ゴンチクドルジ(元国会議長)は政府に対し公開質問状を出した。その内容は、モンゴルは国際援助機関(IMF)からの信用が低下し、そこから分離するという否定的な傾向がある、というものであった(ウドゥリーン・ソニン新聞2002年10月10日付)。
彼らの意見は、О.チョローンバト・モンゴル銀行総裁が、「ウネン」新聞(2002年10月4日付)で、「モンゴルが世界経済の趨勢である民営化を理解しないならば困難を来すであろう」、というタイトルのもとに語った内容に依拠していた。
これに対し政府は回答した。それによると、政府は国際機関との密接な協力の下に、「貧困緩和中期計画」を策定し、それに基づき、2001年および2002年度国家予算を実施し、さらに来年度(2003年度)予算を策定している。О.チョローンバト・モンゴル銀行総裁の見解は個人的な意見にすぎず、政府の政策とは無関係である、というものであった(ゾーニー・メデー新聞2002年10月11日付)。
これに対し、民主同盟連合政権下でモンゴル銀行総裁を務めたЖ.ウネンバトは反論した。彼によると、人民革命党政権の2000年から現在まで、モンゴル経済は停滞状況にある、それどころか、2000年までの指標から低下している。一方、民主同盟連合政権下では2〜3%指標が増加した。IMF計画によってモンゴル経済は停滞したという、О.チョローンバトの見解は、政府の一員としての責任逃れの見解である、という(ウドゥリーン・ソニン新聞2002年10月11日付)。
これらの問題は、@モンゴル経済の現況、AモンゴルとIMFなど国際機関との関係、B人民革命党政権および民主同盟政権の評価、を含む。
人民革命党政権の評価はもう少し時間が必要であろう。一方、民主同盟連合政権の評価は、筆者の論文(例えばこのHPにあるもの)などを参照してほしい。
ここではまず、モンゴル経済の現況について。国家統計局の2002年9月の統計、およびその概況などを見ると、貿易赤字と国家予算赤字、畜産品および鉱工業原料(銅など)輸出の伸び悩み、犯罪率の高さ、などは伺える。だが、これは数字上のことである。筆者がこの夏ウランバートルに住んだ実感としては、物資特に外国産物資の多さ、小売店・露店の増加、失業率の高さ、などが目についた。
たぶんこれは、実体経済と統計上の数字とが乖離しているためであろう。外国機関および外国人(筆者もその一人であったが)が多量のドル(筆者ではない)と物資をモンゴルに持ち込む。これは、政府が国家予算歳入に組み込むべき所得税の原資とはならず、闇ドルとして個人消費される。トグルグ価の対ドル恒常的低下から見て、これは大きい。
チョローンバトはそれを捕捉していて、ウネン新聞上で警告を発したのであろう。
次に、モンゴルとIMFなどの国際機関との関係について。IMFは公式的な数字と統計(のみ)を扱う傾向にある。GDP目標値が達成されず、国家予算赤字が解消されず、歳出削減計画がうまく機能せず、不満なことであろう。しかし、これはモンゴル国民が自らの生産活動によって解決するべきことであって、IMFが口出しするべき問題ではない。思い上がりも甚だしい。
まして、国際機関の信用が低下しているから、それを解消するべきである、というのは、逆である。国際機関の信用など「低下」してもいいから、モンゴル国民が独立した生産活動をして、「援助」(2002年時点でそれによる対外負債がGDPの約80%に達するといわれる)に頼らず、自国通貨の信用を増大させなければならない。その意味で、オチルバトやゴンチクドルジ、ウネンバトの意見こそ「無責任」な意見と言うべきであろう。(2002.10.17)
