
2002年夏モンゴル(2002年09月01日)
筆者はこの夏、8月2日から30日まで、調査などのためモンゴルにいた。
この間の出来事を日誌風に整理すれば、以下のようになる(MTWはMongoliaThisWeek紙、Mongol MessengerはMongol Messenger紙、UBPはUlaanbaatar Post紙、ONはウヌードゥル新聞、ZMはゾーニー・メデー新聞、MMはモンゴリン・メデー新聞、OSはオドリーン・ソニン新聞、【 】は筆者のコメント)。8月16日から21日まではヘンティー地方に調査に出かけたので欠落している。
・中国資本の工場(Mongol Hun Hua)で女工員2人が事故死【外資の労働条件劣悪を示す】。MTW020730
・世界銀行、IMFが日用品価格上昇を強要。MTW020730
・野党、補欠選挙勝利を目指す。MTW020730
・国連開発計画(UNDP)がモンゴルの発展を「評価」する。Mongol Messenger020731
・減税期待が高まっている【アルタンボラグ経済特区建設に関連して】。Mongol Messenger020731
・民主党、市民の意志ー共和党の「民主勢力」が同盟した。ON020802
・第36選挙区補欠選挙(トゥブ・アイマグ)(9月6日実施)問題、民主党書記長Ш.バトバヤルへのインタビュー、「民主新社会党、伝統統一党が同盟に反対していることに苦慮している」。ON020803
・第36選挙区補欠選挙(トゥブ・アイマグ)(9月6日実施)問題、「諸党は「カード」を隠している」MM020803
・「モンゴル人の政治活動【への関心】が低下している」(最近の世論調査)ON020805
・モンゴルボルガルゲオ会社付属ジャルガラント金鉱(バヤンホンゴル・アイマグ)社長プレブギャルによる背任行為【会社財産の横領】。ON020806
・消費者物価上昇の影響(原因は石炭価格の上昇)。OS020806
・2002年7月までの7ヶ月間に5.8トンの金を産出した。OS020806
・「1000世帯余りは家畜を所有せず、4000世帯余りは所有家畜を50%減少させている」(ツォグトバータル国会議員談)。MM020806
・アルハンガイの人々が、融資受領額、および運び屋(ガンザギーン・ナイマー)商売が一番多い。MM020806
・全国の70%以上が干ばつになっている。ZM020807
・共同行動協定(тYншлэл гэрээ)を締結することが(補欠選挙立候補者を)推薦するより重要【民主党による他の野党取り込み戦術か】。OS020807
・住民登録のない世帯に電気を供給することになった。ーーバヤンズルフ地区の90・世帯近くのうち6世帯をのぞく世帯は土地私有許可がないため電気が供給されず、電気の盗難が続いていたが、このほどこれらの家庭に電気を供給することになった【貧困化と犯罪、それに対する社会保障政策の問題】。ZM020808
・電気暖房料金値上げについて、最終的決定はまだ出されていない。ZM020808
・国内産業崩壊の寸前まできたのかーーモンゴル経済が2001年に1%上昇したが、中国は7.3%上昇している。ZM020808
・モンゴル人は国際水準からみてエネルギー料金は高額であろうか(いやそうではない)【当たり前、人民革命党エンフバヤル政権による料金値上げのために地ならしの宣伝】。ZM020809
・「世紀の道(ミャンガン・ザム)」進行中ーーバガノール区から15.4キローメートル、ザブハン川に架橋工事中。ZM020809
・最低賃金額を定めることは貧困を悪化させる(バーバル・バトバヤル論文)【逆である】。ZM020809
・(2002年)9月1日から最低労働賃金が3万6千トグルグになる。OS020809
・祖国ー民主新社会党は第36区国会議員補欠選挙立候補者にЖ.ゴンボジャブを推薦。MM020809
・民主党、および市民の意志ー共和党、党内事情【民主党によるオヨン取り込みの試み】。MM020809
・世界市場に占めるモンゴル絨毯。ON020810
・犯罪率が前年より2.9%増加した【ウランバートル市内を実際みていると実感としてそのように感じる】。ZM020810
・人民革命党は1930年代の政治的粛清を復活させている。OS020810
・国会議員オヨン、電気暖房料金値上げを中止するようインフラ相に要請した【モンゴルに強力な野党が形成できるとすればオヨンを代表にするしかないかもしれない】。Mongol Messenger020807
・スフバートル・アイマグに中国企業によって道路が敷設され、その費用は干し草で支払われる。Mongol Messenger020807
・ドルノド・アイマグのハタンボラグ・ソムに国境通過所が開設され、そこで今年9月から国境貿易が行われる。これは、そこから250キロメートルにところにあるウムヌ=ゴビ・アイマグのガショーンスハイトの国境通過所に次ぐものである。Mongol Messenger020807
・AIDSキャンペーンを行ったとして、ウグ(YG)新聞女性記者が逮捕された。彼女は今まで政治コラムを書いてきた。だから政治的弾圧であるとして、当該新聞社社長A.ガンバータル(前国会議員)が抗議声明を出した。Mongol Messenger020807
・チンギスハーン墓跡発掘(アメリカによる)に対し、聖地を汚す、として中止命令が出された。Mongol Messenger020807
・国民の政治への関心が低下している。最近、国立大学社会学センターが740人を対象にして行った世論調査によれば、積極的な者は1999年時には4.5%だった。中立の者は1999年に12%だったが今年は32.6%に増加した。無関心な者は同様に0.6%から4.5%に増加した。Mongol Messenger020807
・遊牧民は国連開発計画による中小規模融資に対する返済が最も優良である【本当だろうか】。Mongol Messenger020807
・三井物産によるモンゴルにおける不正入札。UBP020808
・中国資本の工場(Mongol Hun Hua)で女工員2人の事故死事件続報。ON020812
・中国資本の工場(Mongol Hun Hua)で女工員2人の事故死事件続報、労働組合の力の弱さ。ZM020812
・就労中の年輩者の年金額を増額する。OS020812
・オヨン、モンゴルの改革に関する文書を公刊。OS020812
・省の人員を削減し、給料を増やす【いよいよIMF路線が本格化してきたようだ】。ON020813
・不良債権の割合が51%から8.3%に低下したーーエンフバヤル首相、オラーン財務相、ナサンジャルガル食糧農牧業相たちの記者会見より。ON020813
・(対丸紅負債に関して)個人の負債を政府が支払うことはしない(エンフバヤル談)【当たり前】。ZM020813
・Д.エンフバットについて(ゾリグ殺害事件容疑者に目された人物)ーー懲役13年。ZM020813
・エンフバヤル談、丸紅に支払う負債を政府が支払わないようにする道を探るべきである。OS020813
・土地を巡る争論に警察は関与しない【土地所有法が成立したのに無責任。また、土地を巡る争論が多発していることを示す】。ZM020813
・支援国、(モンゴル)自然環境保護に多額の援助を約束した【すべて援助頼み】。ON020814
・(今年の)冬営地(設営)が困難になるかもしれない。ON020814
・モンゴル人女性の海外売買。ZM020814
・政府機構改革。ZM020814
・人民革命党、補欠選挙候補者推薦決定。OS020814
・商業発展銀行の新経営者がまもなくやってくる。ON020815
・民主勢力連合、(国会議員選挙第36区補欠選挙で)Ж.ゴンボジャブを支持。ZM020815【後に見るとおりこれは誤報】
・政府閣議(2002年8月14日)詳報。ZM020815
・「モンゴル人は民営化からなにを得たかー全国民が私有財産を得たことが成果である」(Б.バトビリグ論説)【その危険性が理解できていない】。ZM020815
・ウランバートルに(日本の無償援助で)新しい橋が建設される【汚職はないか、要調査】。OS020815
・全国規模で800人の教師が不足している。OS020815
・(米共和党国際局モンゴル部門担当責任者Jackson L. Cox談)「強力な野党の実現に尽力している」【米国のモンゴル干渉。エルベクドルジとの関係も推測できる】。OS020815
・テムジン・メンチ(中国資本)に法律違反が明らかになった。ON020822
・ジャクソン・コックス:「モンゴルの野党は同盟ではなく統一することによって勝利することができる」。ON020822
・モンゴル・シベリア経済協力会議開催。ZM020822
・外国人はモンゴルの鉱山部門に興味を示している(政府鉱山局局長)。ZM020822
・全国の70%がガン(干ばつ)になっている。ZM020822
・テミジン・メンチ工業に監査を行った。OS020822
・民主党が研修会を開いた。OS020822
・冬営地の準備を精力的に行うよう指示した。OS020822
・国家予算歳入が112億トグルグ、歳出が41億トグルグ増えた。ON020823
・国会が「世紀の道」に参加することを呼びかけた【ということはこの政策がうまくいっていないことを示す】。ON020823
・アジア開銀が32年返済の融資をする。ZM020823
・APU前社長ジャミヤンスレンが特別保護区を不法に占拠している。ZM020823
・「世紀の道」に参加することを呼びかけた。ZM020823
・「民主主義の再興をいかに行うか(シンポジウムのテーマ)」が22日にチンギスハーン・ホテルで開催された。ZM020823
・「民主主義の再興をいかに行うか(シンポジウムのテーマ)」が22日にチンギスハーン・ホテルで開催され、オヨン、ナランツァツラルト、グンダライ、ゴンチクドルジ、エンフサイハン、ドルリグジャブなどが参加した。OS020823
・「民主主義勢力」ナランツァツラルト、エンフサイハン(До.ガンボルド選対委員長)、オヨンの記者会見、オヨン「選挙民の投票を間接に買い取っている」。ON020824
・モンゴルで21万7700人の若者が失業している。ZM020824
・「世紀の道」建設労働者は5万〜7万トグルグの賃金を得ている。ZM020824
・(国会議員補欠)選挙の公正に民主主義勢力が異議を唱えている。OS020824
・バーバル論説(最低賃金設定は貧困を悪化させる」への社会保障労働省局長А.アヨーシの反論。ZM020826
・「До.ガンボルドをトゥブ・アイマグの人々は支持している」【内容はДо.ガンボルドへのインタビュー、民主同盟連合政権時代の政策(年金増額)などを養護しているが、すでに否定された議論である。トゥブの選挙民が支持しているという根拠は示されていない。つまり看板に偽りあり、ということ】。OS020826
・民主党、政府に対して要望書を提出し、その中で、給料、年金、社会保険料を増額すること、燃料暖房費の二倍増額しないこと、人民革命党の公約(給料、年金、社会保険料を増額)を実行することを要求した。OS020827
・燃料暖房費値上げ問題ー値上げ幅縮小【地方によって料金が違う、ゾド被害の大きいトゥブ・アイマグが一番高いことに注意】。ZM020828
・ウランバートルの労働者が燃料暖房費値上げに反対。OS020828
・ゴンボジャブ(国会補欠選挙民主新社会党候補者)「国会で野党の議席を増やすことが重要である」。OS020828
・ニャムダバー保健相批判ー【100ドルの)給料で生活していない大臣、保健相を私物化している、という論旨】。OS020828
この夏のもっともホットなニュースは、日本がらみで、筆者が帰国準備に忙しかった28日に、日本の新聞各紙で報道された、日本商社の汚職疑惑であろう(このことは帰国してから知った)。これはウランバータルポスト紙が8月8日付けで報道していたが(上の「日誌」参照)、この時点においては、モンゴルでは報道されなかった。
この問題は対第三世界で展開されている構造的な問題であって、筆者もいずれ取り上げようと思っている。ここでは、「モンゴル・ホン・ホア」社での女子社員感電死問題(7月30日)、「テムジン・メンチ」社監査問題(8月22日)を取り上げたい。
「モンゴル・ホン・ホア」社は、中国資本の紡績工場で、若年モンゴル女性を低賃金、長時間労働、衛生不良、という最悪の労働条件で就労させている。労働管理がずさんのため、労働を終えて隣の部屋に移った女性労働者が、電気に触れて感電死した。
一方、「テムジン・メンチ」社は、「モンゴル・ホン・ホア」社に勝る悪名高い企業であって、アルバート・カルダードという香港在住のアメリカ人によって設立された縫製工場である。この企業の従業員は、「極めて狭い場所に押し込められ、多数が働き、いくつかの工場の敷地は寒くて、10月になっても暖房装置が入れられず、従業員は固いイスやセメントの床に座ったり、立ったりして作業して、さらに新鮮な空気が不足し、寒さと特に疲労が重なって風邪をひき、のどや腎臓病にかかることが多くなった。だが、従業員は、病気になったことがわかると職を失うことを心配したために、病状を更に悪化させていた」(ナムジム著『モンゴルの過去と現在』参照)。
この企業に行政監査がようやく入ったわけである。
この両社の事件は、エンフバヤル人民革命党政権の政策の問題点を浮き彫りにしている。
2000年の国会議員選挙で、人民革命党はほぼ約95%も議席を獲得し、政権に復帰した。人民革命党はその後、「政府行動指針」を発表し、4年間の政策を策定した。その中で骨子となるのが、「国内産業育成」、というものであった。ところが、国内には資金が不足しているため、外国企業を誘致して、モンゴル人の就労機会を増やし、あわせて、技術習得を目指そうとした。当然、この政策はIMFなどのPRGF(貧困緩和成長戦略)プランにも合致していた。
ところで、こうして推進された、「外国企業による国内産業育成」(形容矛盾であるが)の内実は、うまくいっていない。
モンゴルの外資の一位は、中国である。中国系企業は上の企業の例でも分かるとおり、労働条件が最悪であることが多い。優秀なモンゴル人労働者も技術を向上させるより、消耗させる場合のほうが多い。
また、国内に就労機会がないため、若年の希望に燃えたモンゴル人は、不法とは知りつつ、韓国などに出稼ぎに行く。彼らは詐欺にあったり、健康を害したり、強制送還されたりして、帰国した、という具体例を筆者はいくつも聞いた。
これが、エンフバヤル政権の外資による国内産業育成の現実なのである(2002.09.01)。
