
モンゴルの自生的発展の見地からから一週間の動きを見ると(2002年05月27日)
今回は、2002年5月27日以降の一週間の動きを、「モンゴルの自生的発展」(その重要な鍵の一つが経済的独立)という観点によって、肯定的動きと否定的動きに分けて、国営モンツァメ通信の記事から、ヘッドライン・ニュース風に述べてみよう。
やはり否定的側面から述べなければならないのは残念だ。
5月27日。米軍軍事専門家が(自然災害防止という名目で)アルハンガイ・アイマグで8日間の作戦をモンゴル軍を指導した。牧地を無許可で開墾する動きが顕著になっている。最近の統計では牧民一世帯当たりの家畜所有頭数は141頭である。
アメリカがテロ防止を名目にモンゴルを巻き込む意図があるかどうか。監視する必要がある。牧地の私有化という愁眉の問題はいわゆる土地浸食とも関係する。牧地は「草原の海」とも見なすべきもので、私有化することが一概にいいものとは思われない。家畜頭数は最低でも200頭が必要とされる。ということは、家畜の私有化によって牧民達が貧困化していることを示す。
5月28日。地方のモンゴル人が都市に移住するのを制限するために、「移住登記法」に基づき、実態を調査することになった。
都市、特にウランバートルの住環境の悪化は著しい。その原因の一つがゾド(雪害)による地方民の生活手段の喪失があげられている。むしろそれは口実であるように思われる。最大の原因は、政府の経済政策の失敗がある。背後にはもちろんIMFがいる。
5月29日。国民の約50%が経済的依存状態にある。
これは経済の自生的発展が実現できていないことを明確に示すものである。
5月30日。APU(酒類飲料醸造販売)が民営化されたが、新旧経営陣の内紛が続いている。地方に12銀行、436支店が営業している。地方債が販売される。地方人口が前年より7.6%減少している。
民営化と自生的発展は一見不可分のように思われているが、そうではないことをAPU民営化が示している。この間に外国製酒・ビールが国内を席巻することだろう。国産酒・ビールの保護も必要になるかもしれない。上からの銀行創設がモンゴルの特徴であった。その銀行が地方で何をしようというのか。牧民の自己破産を誘発するだけにならなければいいけれども。地方での経済文化活動の活発化こそ当該国の発展を保証するものである。地方人口の減少はその逆の現象である。
5月31日。日本・教育フェアーがウランバートルで来月(6月)8日と9日に開かれることが決まった。510を数える農業経営単位は国庫への負債が40億トグルグになっている。スフバートル・アイマグは記念行事のために20万トグルグを支出することになった。
日本の教育制度とモンゴルのそれとは起源を異にしている。不都合なところ(いじめなど)を示さないだろうから、実態とかけ離れた日本の宣伝にしかならないだろう。農業団体の負債が「国家」であるだけまだましだが(銀行と違って)、負債であることには変わりがない。「記念行事」に貴重な財源を使うより、年金・給料に遅配や生活・教育環境の改善に使用すべきであって、そうした官僚主義は前代の悪しき伝統であろう。
次に肯定的側面について。
5月27日。社会保険制度実施の前に、最貧困層13万9千人に国庫から年金が臨時に支給される。ウムヌゴビ・アイマグで飲料販売、ハム製造、工場操業などが開始された。
社会保障制度の確立は前代の達成点である。貧困層を生産活動に誘引することがモンゴルの自生的発展に不可欠であり、生活保障はそのための必要な要素である。加えて、地方での小規模生産の高まりこそが自生的発展の前提になる。問題はそのための法制的・経済的な支援(あるいは、逆説的に言えば、「支援」しないで、自由に生産活動を行うことを「支援」する)であろう。
5月28日。ホブド・アイマグで、国庫からの総額2970万トグルグの小口融資によって、145人が就業の機会を得た。
5月29日。ウランバートルでも失業中の若者60余人が交通標識設置などの就労機会を得た。バヤンホンゴル・アイマグで胃腸病・咽喉炎に効果があるとされる鉱泉が復旧した。
この両日の出来事は、ともに国民の福利・労働の権利の保障という点では、肯定的な側面を含むであろう。
5月30日。カシミア産業に36経済主体が従事している。地方で50以上の貯蓄組合が営業している。豆満江開発国際会議(6月1−3日)にモンゴルも参加の予定。
カシミア部門は銅・モリブデン鉱業と並んで、モンゴル経済の車の両輪である。問題は、その70%以上が外資系企業単位である、ということである。国民の相互扶助と経済開発を目的とする貯蓄組合の発展が、銀行の営業活動よりもモンゴルの自生的発展に適合する。豆満江(トゥメン・ゴル)開発は、海への出口として、モンゴルにとって一つの可能性であることは否定できないだろう。問題は、国連や日本などの経済大国主導ではなく、平等なものでなければならないだろう。
5月31日。ウムヌゴビ・アイマグのオユ・トルゴイ鉱山の金・銅推定埋蔵量が、それぞれ4487トン、320万トンになると見られる。今夏は、冬に雪がたくさん降って、水が豊富で、草がよく生育し、40年ぶりの快適な夏(家畜と人間にとって)になるという。
オユ・トルゴイ鉱山の開発はエルデネト鉱山よりも有望視されている。モンゴルそのものはアルタン(金)とかムング(銀)とかといった鉱物資源に関する地名が多い。ということは、鉱物資源が豊富だというとを示唆するが、問題は、この鉱物資源を輸出するだけでは、植民地型経済を踏襲するだけである。この貴重な資源をモンゴル経済の発展にどのように結びつけるかが重要であろう。ゾド(雪害)に次ぐ「家畜の肥える夏」の到来とは、春の来ない冬はない、後進が先進に転化する、といった先人の知恵の具体化ではないだろうか。
以上が一週間の主要な動きだが、否定的側面の深刻さが気になるところである。だが、とりあえず、「家畜の肥える夏」は心和むところではある。(2002.06.07)
