
社会保障・労働省前でハンストを行っていた6人がハンストを中止した(2002年05月01日)
2002年5月1日(メーデーの日)、社会保障・労働省前でハンストを行っていた人々6人がハンストを中止した。
このハンストの背景は、韓国IAD社代表ソ・ヤン・ジョなる人物が、モンゴル人64人を韓国に季節労働者として派遣する、と偽って、その費用総額約1億4000万トグルグを詐取した、というものである。詐取されたこの費用の返還を求めて、モンゴル人労働者派遣許可証を交付した社会保障・労働大臣Ш.バトバヤルに対し、、4月17日から、当該省前でハンストが行われた。
この5月1日、この費用の内ハンスト参加者6人分の1500万トグルグを、「雇用者連盟」が支払い(その理由は後述)、その他の人々の費用分は裁判所で争う、ということで合意に達したため、ハンストを中止したのである。
この事態の推移について、いくつかの特徴が指摘できる。
第一に、モンゴルの労働環境は厳しく、生活の向上を求めるモンゴル人は、就労機会を求めて、先進国へ出稼ぎに出かける。今回の事件では、韓国がその相手国である。韓国とモンゴルは外国人労働者派遣に関して取り決めを行って、1000人まで労働許可を交付することになっている。だが、これは正規就労のことであり、この場合は健康保健などが与えられる。ところが、現実にはこの10倍のモンゴル人労働者が韓国で労働に従事していると見られている。これらのモンゴル人の労働条件は劣悪である。それでもモンゴル人は出かける。こうした人々を食い物にする人々が出現する。これは、「我が亡き後に洪水は来たれ」(=利得のためなら何でもする)という資本主義原理の一つの隠花である。このような例は日本の他、世界各国にある。
第二に、詐欺被害にあったモンゴル人は、その補償を当事者にではなく、政府(国家)にもとめた。これは、労働者保護を要求するのは労働者の権利であり、就労を確保するのは政府(国家)の義務である、という社会倫理があるからである。これは社会主義時代に培われたものである。こうしたことは、ボヤン社の「ジャガー」こと、ジャルガルサイハンが丸紅からの「融資」(といわれている)返済不履行の責任を、当然の「権利」として、その保証を行った政府に求めた、という事件にも見られる。この場合も、国民は政府に責任がある、と考えている。
第三に、ハンストという抗議行動は、国民の最終的抵抗手段の一つである。この行動は民主化運動でもとられた。そのインパクトは大きい。ただ、今回のそれは、ハンスト参加者が、民主党などが主催した4月15日の抗議集会(モンゴル時評も参照)で、その実行を宣言していた。その点をとらえられて、社会保障・労働大臣Ш.バトバヤルに、「自分をダシにして人民革命党と政治的取引をするのが彼らの目的だ」、と足元を見られてしまった。
いずれにしろ、こうした資本主義精神と社会主義倫理とのせめぎ合いが、モンゴルではこれからも続く。(2002.05.09)
