五番隊編 2
隊主羽織を纏った広い背中に先導されて、日番谷は生まれて初めて護廷隊の隊舎の中に足を踏
み入れ、磨き抜かれた廊下に歩を進めていた。
一隊ごとにおよそ二百五十名を擁する護廷隊の隊舎の中は思っていた以上に広く、日番谷は好
奇心に溢れた瞳で辺りを見渡しながら藍染の後に着いて行った。
「ここが一般の隊士達が業務に使っている部屋だよ。ちょっと中の様子を見て行こうか」
ゆったりとした歩みで各所を判り易く説明してくれていた藍染が、大きな一室の前で立ち止まり、日
番谷を振り返った。
「はい。是非!」
元気な応えたに頷き、「お邪魔するよ」と、一声掛けて扉を開けた藍染に続き、日番谷も明るい室
内へと入る。
「こ、これは、隊長!」
突然、院生の制服を着た日番谷を連れて現れた自隊の隊長に、皆が驚き慌てて立ち上がって礼
をする。
「あぁ。いきなりごめんよ。ちっとだけ仕事の手を止めてもらっていいかな」」
隊士達に温和に微笑み掛け、すっと日番谷の背を優しく押して前に即す。
「正式な発表は後日になるが、彼は日番谷冬獅郎君だ。この度我が五番隊に入隊してくれること
が決まったんだよ」
藍染の言葉に歓声に近いどよめきが上がり、日番谷は慌てて「よろしくお願いします」と頭を下げ、
その初々しい様子に好感を持ったらしい隊士達が、一斉に拍手をして歓迎の意を示した。
部屋に居たのはおよそ五十名程であったが、どの顔も笑顔であり、傑出した天才児として名を轟
かせている日番谷を獲得出来たという驚きと喜びが滲み出ていた。
「君には三席として入隊してもらうつもりだから、実際に業務に着くのは上位席官の執務室になる
次はそちらに案内しよう」
ざわついたままの部屋を出て、更に先に進みながらの藍染の言葉に、日番谷は胸をときめかせな
がら「よろしくお願いします」と破顔した。
いよいよ市丸に逢える! その思いに心が震えた。
だが高鳴る鼓動を抑えて入室した執務室に市丸の姿は無かった。
考えてみれば死神が最も重きを置くのは瀞霊廷の守護であり、業務中だからといっていつも執務
室に詰めている訳ではないのだ。
そこには七、八人の席官達がいて、流石に先程よりは抑えた歓迎ではあったものの、やはり一様
に日番谷の入隊を喜んでくれた。
「さて、隊舎内は一回りしたことだし、道場の方へでも行ってみるかい?」
「道場って、斬術のですか?」
「斬術と鬼道と白打のものとがあるよ。時間はたっぷりあるから全部見て行けば良い。まずは斬術
かな?」
「はい!」
斬術に自信があるらしく、活き活きとした日番谷の表情に藍染も微笑み、二人は一旦外へと出て
道場へと向かった。
思慮深く、温和な気質で知られていながら、剣の腕前も護廷隊で屈指のものを持つ藍染を長に頂
く五番隊は、文武両道を表看板にしているだけあり、その道場は、大層広く立派な建物だった。
中には三十人程がそれぞれに竹刀を振るい、汗を流している。
道場の中央では背の高い浅黒い肌をした精悍な顔立ちの男が声高に稽古を付けており、幾人も
の隊士がその順番を待っているようだった。
そして正面に一段高くなっている所には『見所』が設けられ、金色の髪をした青年がきちんと正座
したまま稽古の様を見守っている。
「―――あっ!」
自分の訪れにいち早く気付いたその青年が立ち上がろうとするのを片手を上げて制し、藍染は静
かな足取りで道場の隅を歩き、日番谷を伴い青年の横へと腰を降ろす。
「君は今日は休みの日なのに、皆の稽古を見てやってくれているんだね。ありがとう」
「いいえ。僕が五番隊のお役に立てるのも後少しですから」
優しげな風貌をした青年は藍染から日番谷へと視線を移し、目礼する。
日番谷も目礼を返すと、もう次の瞬間には興味深げに稽古の様子に瞳を輝かせた。
この頃には無我夢中で稽古に汗を流していた隊士達も藍染と日番谷に気付いていたが、自隊の
隊長が道場に顔を見せるのはよくあることであり、この機会に藍染の目に留まろうと、尚一層手に
した竹刀に力を篭めて、互いに立ち向かっていく。
その迫力に日番谷の口から素直な感嘆の溜息が漏れた。
「いいなぁ・・・」
頬を紅潮させ、碧の瞳を煌かせる日番谷に藍染が目を細める。
「君は斬術が好きなんだね」
「はい! 大好きです」
即答して、尚も食い入るように稽古の様子を見詰める日番谷に、それなら、と藍染が提案する。
「もしよければ君も誰かと手合わせしてみるかい?」
「えっ! 本当ですか!」
嬉々として腰を浮かせた日番谷は藍染の隣に座っている青年を真っ直ぐに見詰めた。
『見所』に座っているからには、藍染と自分を除いたこの中で一番強いのはこの青年なのだと判っ
ているからである。
日番谷の射抜くような視線に苦笑しながら、青年が問い掛ける。
「日番谷君の相手は誰がよろしいでしょうか?」
「そうだねぇ・・・。では神崎君、どうかな?」
「―――喜んで!」
何時の間にか、隊士達に稽古を着けていた長身の男が不敵な笑みを浮かべて日番谷の前に立っ
ていた。
続く
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