五番隊編 1
翌日、日番谷は昼から外出許可をもらい、護廷隊の六番隊舎へとやって来た。
理由は勿論隊長である朽木白哉への謝罪の為だった。
一度は入隊を了承しながら、自身の勝手でそれを反故にしてしまった後ろめたさと、何より自
分に寄せてくれた白哉の期待を裏切ってしまった悔恨に、日番谷の足取りは重いものだった。
が、とにかく詫びねばならないという決死の覚悟で隊士に取り次ぎを頼んだ日番谷の前に現
れたのは、老齢に達した思慮深げな人物だった。
「日番谷冬獅郎殿じゃな」
名乗る前に呼びかけられ、面くらいながらも応える。
「は、はい。・・あの突然で申し訳ありませんが、是非朽木隊長にお目に掛かりたいのです」
「残念ながら隊長は今朝から現世での任務に就かれ、ここには何時お戻りになられるかは定
かでない」
「ええっ!」
失望の声を上げる日番谷に対し、男は温和に微笑みかけた。
「私はこの六番隊で副隊長を勤める銀(しろがね)と申す。実は隊長より貴殿に宛てて手紙を
預かっておる」
そう云った銀は懐から一通の書状を取り出し、日番谷に手渡した。
「朽木隊長が俺、いえ、私に?」
驚く日番谷に、銀はゆっくりと頷く。
「うむ。隊長は貴殿の来訪を予見しておられたのだろう。出掛ける前にこれを私に託されて行
かれた」
「・・・・・そうですか。ありがとうございます」
白哉から自分宛てに手紙を貰うなど、意外過ぎる成り行きに戸惑いながらも銀に礼を云い、日
番谷はその小さな踵を返したのだった。
一体どのような内容が認められているのだろうと気が逸り、霊術院の自分の部屋まで戻るの
ももどかしく、護廷隊の中を行き来している死神達の、自分に向けられる好奇の視線を受なが
ら、どこか落ち着ける場所はないかと辺りを見渡した日番谷の目にキラリと光る物が写った。
なんだろうと思い近付いて行けば大きな池のほとりに辿り着く。
先程の光は太陽が水に反射した物だったのだろう。
辺りを見渡し、人の気配がないのを確認した日番谷は両手で大事に持っていた白哉からの手
紙を震える手で開いた。
中から現れたのは流麗な筆跡でしたためられた簡潔な短い文章だった。
日番谷が五番隊に入隊する旨を昨夜市丸から知らされたという事。
非常に残念ではあるが、互いに遺恨は残さず以後は護廷隊の為に尽力を惜しみなく、自身の
鍛錬にも勤めるようにとの言葉が書き記してあり、手紙を読み終えた日番谷は安堵の溜息を
大きく吐き出した。
(・・・・・・・あぁ・・・。良かった!)
暫らくの間、手紙を胸に抱いて目を閉じ、白哉の人となりに深く敬意を抱くと共に感謝していた
日番谷は、しゃがみ込んでいた池の淵から立ち上がろうとしたところでハッとなった。
何時の間にやって来たのか、一人の男が自分の背後に立っている姿が池の水面に映し出さ
れていたからだ。
慌てて飛び退るように振り向いた日番谷に、相手は組んでいた腕を解き、にっこりと笑い掛け
た。
「やぁ。こんにちは、良い天気だね」
「―――あっ!」
長身の身体に死覇装を纏い、更にその上に隊長の証である純白の羽織を身に着けているこ
の男が誰なのか、日番谷は一瞬で理解した。
「日番谷君だろう?」
「・・・はい!」
「初めまして。僕は五番隊の隊長の藍染惣右介だよ」
(―――やっぱり!)
突然の藍染の出現に、白哉からの手紙で緩んでいた気が一気に引き締まる。
藍染が何故ここにと思ったが、考えて見れば五番隊と六番隊は隊舎が隣接しているのだ。知
らない内に五番隊の敷地内に入り込んでしまっていたのだろう。
日番谷の思惑に頓着なく、藍染はゆっくりと歩を進めて来た。
「昨日市丸から連絡を受けたよ。我が五番隊に入隊してくれるそうだね。歓迎するよ」
そう云って差し出された右手に、躊躇ったのは僅かの間で、日番谷は「よろしくお願いします」
とその手を握った。
生まれて初めて護廷隊の隊長と握手を交わし、興奮のあまり心臓が踊っているかのようだ。
一方の藍染は日番谷が何故この場に居るのか詰問することもなく、和やかな表情で尋ねる。
「日番谷君はこの後予定はあるのかい?」
「予定? いえ、何もありませんが・・・」
「そう。霊術院へは門限まで戻れば良いんだよね?」
「はい」
聞かれたことに素直に返事を返す日番谷に、だったらと藍染は提案してきた。
「折角の機会だ。五番隊の中を見学していかないかい?」
「えっ! 良いのですか?」
思わぬ申し出に日番谷の心は嬉しさのあまり浮き立つ。
それは取りも直さず市丸に逢えるという喜びに直結していたからである。
期待に瞳を輝かす日番谷を目にし、藍染はそれと判らぬ程に口角を上げる。
「僕は今日は暇な身でね。隊士達の査察がてら君に隊舎内を案内してあげよう。さぁ着いてお
いで」
先に立ってゆったりと歩き出した藍染に、日番谷は喜び勇んで従ったのだった。
続く
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