五番隊編 十

市丸が遠ざかるや、日番谷はすぐさま雛森に謝った。

「あ、あの、・・・ごめんなさい!」

「えっ?」

「俺があなたのことを、ここにいる人達の中で一番可愛いって市丸副隊長に言ったんだ。そう

したら、止める暇もなく声を掛けてしまって・・・」

「まぁ・・・!」

頬を赤らめたままそう言って俯く日番谷を、雛森は驚きと喜びで見詰めた。

「―――私が一番・・・ですか?」

雛森の声が掠れていることに気付くことなく、日番谷ははっきりと頷いた。

「うん。そう思った」

あまりにもきっぱりと言われ、戸惑いと共に強い歓びが雛森の胸を満たす。そして、その一方

で改めて市丸の用意周到さに、内心で感服した。



実は雛森は前もって市丸にこう言われていたのだ。

『雛森ちゃん、お風呂場に行ったら、なるべく髪の色の明るい子を四、五人程自分の周りに侍

らすんよ。出来るな?」

『はい』

自隊で女性最上位である雛森にとって、それは雑作も無い事だ。何しろ女性隊員の殆どから

憧れられ、慕われ、また頼られている雛森は大層な人気者であり、誰もが声を掛けて欲しい、

側に侍りたいと渇望する存在だったからだ。

『それからキミは髪を下ろしたままで、浴槽の淵に腰掛けておいで』

『髪を下ろしたまま・・・ですか?』

『そうや、キミのその綺麗な黒髪は威力のある武器と同じや。・・・後はボクがキミが目に留ま

りやすい位地に冬獅郎を誘導する。これで決まりやね』

『――そんなに簡単にいくでしょうか? もし日番谷さまが私以外の者を目に止めたらどうなさ

いますか?』

市丸を信じないというのではないが、少なからずの不安要素に雛森は心配そうな顔をした。

だが市丸はこれを笑い飛ばして、言ってのけたのだ。

『大丈夫やて。安心し! 明るい髪の色の中で、艶やかな黒髪がどんなに映えるものか! そ

れに実際のところボクがなにも画策せんかて、冬獅郎はキミを見初めるはずや。自信を持ち』

そう言われても、あの時はまだ半信半疑だった。しかし、市丸の読みは見事に的中し、日番谷

は自分を指名したのだ。雛森は今更ながらに市丸の凄さを垣間見たような気がしていた。



「だから、あのぅ・・・・・」

「えっ」

躊躇うような小さな声に雛森は現実に引き戻される。

「迷惑を掛けて悪かった。どうかもう俺に構わずに友達の所へ戻って下くれ」

(―――まぁ!)

日番谷の礼儀正しさに雛森は一種、感動のようなものを覚えた。そしてそれと同時に・・・

(この方はなんて可愛らしいのかしら!)

まるで胸がキュンキュンするようなときめきを感じる。

日番谷に対して恋愛感情に近い愛おしさが込み上げてきたのだ。

「迷惑だなんてとんでもない。私は自分の意思で今ここに居るのですよ」

「・・・・・本当に?」

碧の大きな瞳が驚いたように見開かれるのに、にっこりと微笑む。

「はい。私、日番谷さまが大好きになりました。どうか今夜私の部屋へお越し下さい」

「―――えっ?・・・ええっ!」

思いがけない雛森の言葉に日番谷は驚愕のあまり高い声を上げた。

「えっ、そ、そんな・・・冗談、・・・だろ?」

黒目勝ちな大きな瞳と、強い光を宿した、やはり大きな碧の瞳が暫しの間見詰めあう。

「冗談なんかではありません。・・・でも、日番谷さまは私と一夜を過ごすのがお嫌なのでしょう

か?」

「そっ、そうじゃないけど・・・でも・・・・・あの・・・」

しどろもどろになって慌てふためいている日番谷に対し、雛森は自分の胸を見下ろして軽く溜

息を吐いてみせる。

「私って、おっぱい小さいですよね?」

「―――はぁ?」

「やっぱりオトコの人は市丸副隊長みたいな大きくて綺麗なおっぱいが好きなんですよね?

・・・私なんかじゃ、お嫌なんでしょうか?」

その少し傷ついたような物言いに、日番谷はブンブンと首を横に振る。

「そんなことはない! 絶対にない!」

市丸の胸は確かに美しいと感動するが、ツンと上を向いて花開の時を待っている花の蕾よう

な、少女特有の雛森の胸もまた異性からも同性からも賞賛されるモノだった。

全力で否定した日番谷に雛森はすぐさま切り込んだ。

「それなら今夜、私のお部屋に来て下さい」

「・・・・・本気なのか?」

「はい。日番谷さまが私との時間を作って下さるなら、私は市丸副隊長がどんなコトをお好きな

のか教えて差し上げますよ」

「っ―――! それって・・・・・」

トドメとばかりに繰り出された雛森の言葉に、日番谷は一瞬息を止めた。

それは雛森が市丸との肉体関係を持っていることを示唆していたからだ。

だが、頭の回転が速い日番谷は、可憐な容姿に反比例した愉快な言動を取る雛森に対して

かなりの好感を持った為か、あるいは市丸自身が雛森を『お気に入り』だと公言した為か、衝

撃はあったものの動揺は長く続かなかった。

それよりも悩んでいた市丸との今後の展開についての活路を見出した昂揚を感じる。

「・・・・・・・市丸、副隊長のこと・・・教えてくれるのか?」

用心深く訊いた日番谷に、雛森はこれ以上ない程の愛らしい笑顔を向けた。

「はい。日番谷さまは市丸さまがお好きなのでしょう? だから前もって色々知っておいた方が

コトがスムーズに進んで有利ですよ。・・・市丸さまもきっとお喜びになりますし!」

その自信に満ちた雛森の微笑を目にした途端、日番谷の心は決まったのだった。



                                                 続く
  
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