第七話

朽木邸の応接間とおぼしい高雅な趣味に誂えた一室に案内された市丸がしばし待つこと数分

の後、現当主であり、護廷十三隊の六番隊隊長でもある朽木白哉がその秀麗な姿を現した。

「お寛ぎのとこをお邪魔してしもうてすみません」

柔らかく挨拶をして頭を下げる市丸に対して、白哉は構わぬと軽く応えた。

「わざわざ屋敷まで出向いてくるとは何の話だ?」

決して権高ではないものの、やはり並みの氏素性ではない白哉には自然と相手を圧する雰囲

気が醸し出されている。

だが市丸はあくまで自然態に、死覇装の袂から一通の書状を出し、それを白哉に差し出した。

「まずはこれを見てもらえますか」

差し出された書状にざっと目を通した白哉の眉が寄せらるのを目にし、市丸は内心溜息を吐い

た。

そしてその美しい紫の瞳が非難を込めて自分を見詰めるであろうことを予感した。

が、その市丸の意に反し、書面から顔を上げた白哉は静かな声で問うてきたのだった。

「日番谷冬獅郎は我が六番隊ではなく、五番隊へ入隊するというのだな」

「はい」

「一つ尋ねるが、日番谷は五番隊へは何席として入隊するのだ? もし差支えがないならば

教えてもらいたい」

「あ・・・はい。―――三席としてですが」

「・・・・・三席か・・・ならばやむを得まいな」

小さく嘆息する白哉の、その意外な成り行きに市丸は驚いた。

朽木白哉は見かけこそ物静かそうに見えるが、実はガチガチの武道派である。

声を大にして罵倒はされまいにしても、何がしかのキツイ叱責は覚悟してこの屋敷に足を運ん

だのだ。

そしてそれはこれからの護廷隊での五番隊と六番隊の軋轢を心配してというよりは、日番谷

に対する配慮を考えてのことだった。

根がマジメで一途なあの少年が、一度は交わしてしまった約束事を反故にしたことで、どれ程

心に負担を担ったかを思わずにはいられなかったからだ。

もし最悪、五番隊と六番隊が険悪な関係になっても、その余波がなるべく日番谷にいかない

ようにしてやりたかった。

だが、事態は意外な方向に向かいそうな様相を呈している。

「・・・やむをえん、って云わはったん? それならこの件を承認して頂けるんですか?」

改めて確認すれば、白哉の頭が小さく縦に振られた。

「私が日番谷を手元に置くのはまだ時期早々ということなのであろう」

「―――えっ? それは一体どういうことですやろか?」

訳が判らずに眉を顰める相手に、白哉は意外な事を告げたのだった。

「これは私の祖父が云っていたことだが、もし、どうしても欲しいと願う駒が手に入らなくても嘆

くことはないのだと。それは今の自分に分不相応な相手であり、時期早々なだけだと。・・・又

はそれ以上に優れた駒を手に入れられる前兆であるからと」

「・・・・・はぁ。・・・ええお祖父さまやね」

「そしてもう一つには私は時折未来の光景を夢として見ることがあるが、日番谷は私の夢の中

に幾度も表れたということだ」

「ええっ! ほんまに?」

「我が朽木家には皇家の血が流れていることは知っておろう。その力故か歴代の当主は己の

身に降りかかる出来事を予知夢として見ることがある。私自身も隊長職に付いてから幾度とな

く同じ夢を見た」

「・・・その夢の中にあの子が出でくると云わはるんですか?」

「そうだ。私の夢の中で日番谷は我が六番隊の副官証を腕に巻いていた」

―――――!

驚愕の余り紅い瞳を見開いた市丸は小さく息を呑んでから問い掛けた。

「・・・それはほんまにあの子やったん?」

「間違いない。白銀の髪と碧の瞳―――だからこそ私は日番谷を一目見て自らの副官にする

ことを決めたのだ」

「そうやったんや」

市丸は白哉の話を聞いて納得はしたが、疑問は残った。

自分が現在居る五番隊の副隊長から三番隊の隊長に昇格すれば、藍染は当然の処置として

日番谷に空席となった副官の地位を与えるだろう。そしてそうなれば同格の地位のまま他隊

に移動することは考えにくい。いや、なにより藍染が果たして日番谷を手放すものだろうか?

「失礼を承知でお聞きしますがその夢は外れることはありませんの?」

「時期こそ特定出来ぬが夢見は絶対に外れることは無い。それ故『未来透視』とまで云われて

いる。ただし・・・」

そこで一旦言葉を切った白哉は紫の瞳で市丸を見詰めたまま再度口を開いた。

「ただし、夢の解釈事態を間違うことはままある」

「はぁ・・・成るほど」

なにやら釈然としないが、特別親しい間柄でもない白哉が自分に私的なことを漏らしたのには

素直に感謝の念を抱いた。

「何故ボクのそんなことを教えてくれはったんですか? それ、朽木隊長のお家の大事な事情

やありませんの?」

思わずそう云えば、白哉はさらにジッと市丸を見詰め、「兄には話しておいた方が良いと思った

のだ」と静かに告げた。



相手のテリトリーの中とはいえ、まるっきり白哉のペースで進んだ話に、肩透かしを食らったよ

うな思いの市丸が暇乞いを口にするより早く、白哉は茶を飲んでいけと薦めて立ち上がった。

白哉が隣室に続く襖を開ければそこはしっとりとした雰囲気の茶室になっていた。

「はぁ? お茶って、・・・・・いや、折角ですけでボクは作法とかさっぱり判りませんし・・・」

やんわり辞退を申し出るも、白哉は「好きに飲めば良い」と一蹴した。

こうなっては付き合うより仕方が無いと渋々市丸も立ち上がって茶室に場を移す。

上首尾に終わった会合に波風を立てるのは得策ではないし、滅多に人前で機嫌の良い顔を

見せようとしない白哉が珍しく自分をもてなしてくれるというのだから、今暫らく付き合うのも礼

儀だと思った。まぁその結果多少自分が恥をかいても致し方ないというものだ。

市丸にはさっぱり理解出来ないような作法で、時節柄であろうか、美しい小菊が描かれた茶

碗に茶を点てた白哉はそれを市丸の前に饗し、礼をした市丸はその茶碗を口元まで運んだが

綺麗な菊の絵に口を付けるのを一瞬戸惑い、何気ない動作でその茶碗を半回転させてから

中身を一口味わい、そのまろやかさに僅かに目尻を下げて残りを飲み干した。

「ご馳走様です。美味しかったです」

「うむ」

「・・・ボクはお茶の作法って殆ど判らんのやけど、もしかしてお茶杓の銘とか聞かなあかんか

ったでしょうか?」

市丸のその言葉に白哉はふっと微笑み、自分の傍にある茶杓に目を移して、「この茶杓の銘

は『花の弟』だ」と告げたのだった。


                                                続く

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