第三話
日番谷の大きな碧の瞳が、死覇装を寛げた自分の胸元に釘付けになっているのを内心で哂い、
市丸は美しい少年に艶やかに微笑み掛けた。
「見たい?」
「・・・・・えっ?」
突然の問い掛けに、はっとして市丸の胸元から視線を外しはしたものの、日番谷は何を聞かれた
のか瞬時には判らないようだった。
そんな相手の反応に、尚一層笑みを深めた市丸が再度問う。
「ボクのおっぱい、見たくない?」
「えっ! ええっ・・・?」
自分の耳を疑っているに違いない日番谷に更に市丸は続けた。
「ボクな、キミのこと凄く気に入ったんや。やから正直に「見たい」って云うてくれるなら、ボクの大
事のモノ、キミに見せてあげるで。―――どうする?」
「・・・・・・・」
無言で顔を真っ赤にしている日番谷に、市丸はダメ押しのように優しく囁く。
「ボクのおっぱい、見たいよね?」
ゴクリと小さな喉が上下し、視線を彷徨わせ修巡した後、からからに乾いた喉の奥から搾り出した
ようなか細い声で、日番谷は「―――見たいです」と云ったのだった。
日番谷にとって突然の市丸の言動は自身の常識の範疇を大きく脱しており、理解不能であった。
子供の姿をしている自分をからかっているのだろうかとも、頭の隅で訝っていた。だが、目の前で
寛いで座っている相手からは一切の悪意も感じない。
それに、綺麗な女の人に自分の身体を見たいかと尋ねられ、それに正直に応えたとして何の罪
になるだろう。
何より自分はこんなにも市丸ギンと名乗った五番隊の副隊長に惹かれているのだ。
意を決した一言に、市丸はにっこりと笑い、自分と日番谷を隔てていた欅の卓を床の間の方に押
しやるや、座ったままの姿勢で左肩から襟を落とし、更に反対側も同じようにした。
忽ちにもろ肌を曝した市丸の身体が日番谷の前で露になった。
透明感のある白い身体を構成している細い鎖骨や肩の線の美しさもさることながら、やはり黒い
死覇装の胸元から零れ出た両の乳房に日番谷の視線が惹きつけられる。
いや、日番谷でなくとも、そして男ではなくとも、形も大きさも完璧と云える市丸の胸から目を逸ら
すのは至難の業だったろう。
人が、いつまでもいつまでも眺めていたいと思えるモノ。
上半身を全て曝した市丸の身体はそれ自体一個の芸術品と云えた。
「・・・っ」
衝撃の余り更に頬を紅潮させて絶句した日番谷に涼やかな声が問う。
「どう? ボクの身体」
「・・・・・ぅ・・・・・・・」
市丸の裸体から目を離せずにいる日番谷は、既に理性を浸食されたようで直ぐに言葉が発せら
れなくなったらしい。
その様子にクスクスと笑った市丸は片手を挙げて日番谷を手招きした。
「おいで・・・」
「えっ?」
「ここへ、ボクの側へおいで。キミは素直で可愛え子やから特別にボクの身体触らせてあげるわ」
「――――!」
「ほら、遠慮せんと、早うおいで」
もう一度手招きした市丸の元へ、日番谷はふらふらとなりながらも膝を使って前に進んだ。
もはや市丸にからかわれているやもしれないという思いは日番谷の中で立ち消えていた。
自分の目の前にいる綺麗な生き物に触れたいという本能が理性を押しつぶしてしまったのだ。
両者の間は元々卓上一つ分しかなく、忽ちに市丸の元へにじり寄った日番谷は、それでも一瞬躊
躇し、相手を見詰めたが、はっきりと頷かれたことで覚悟を決め、たわわに実った果実のような白
い乳房に恐る恐る手を伸ばしたのだった。
「・・・ん、あっ・・・・コラ、舐めてええなんて云うてへんよ」
小さな両手に余る豊かな乳房を思う存分揉み扱いた後、誘惑に耐え切れずに、美しい朱鷺色の
乳頭に舌を這わせた日番谷を市丸は軽い口調で咎めたが、言葉とは裏腹に市丸の繊細な手は
日番谷の白銀の髪を優しく梳きあげている。
それに勇気付けられた日番谷が甘い匂いのする乳房を口一杯にほうばった。
「・・・ん・・・・・っ」
瞳を閉じたまま、鼻孔の奥から満足気な吐息に吐く日番谷を軽く抱き締め、市丸もまた不思議な
充実感に満たされたいた。
(あぁ。この子、ほんまになんて可愛えんやろ・・・。)
夢中になって自分の身体にむしゃぶりついている少年に対して愛しさが募ってくる。
藍染と雛森はさて置き、普段から他人とは上辺のみの浅い付き合いしかしようとしない市丸には
珍しい感情だった。
「・・・・・冬獅郎・・・」
市丸の口から零れ出た己の名に、慌てて顔を上げた日番谷の唾液に濡れた口元を市丸の舌が
ペロリと舐め、驚きの余り開かれたままになった桜色の口内にそのまま舌の侵入を許してしまう。
「んっ・・・あ・・・・・ぁ」
口内を一舐めしただけで離れていった市丸の舌先を、今度は身を乗り出して日番谷が追いかけ
た。
再び二人の唇が重なり、互いの唾液を啜りあう。
(・・・あぁ。・・・・・ええ気持ちや)
場数を踏んだ市丸ですらそう思うのだから、日番谷に到っては気分が昂揚し過ぎて頭の芯がクラ
クラする程だった。
「キミ、ほんまに可愛え。―――食べてしまいたいくらいや」
名残惜しげに交わりを解き、日番谷の濡れた口元を自分の指で拭ってやりながらそう云う市丸に
日番谷は未だ夢心地でボーッとなっていたが、次の市丸の一言ではっと我に返った。
「ボク、キミのこと好きになったみたいや。なぁ、キミのこと、冬獅郎って名前で呼んでもええやろ
か?」
これに、日番谷は怒ってようにキュと唇を引き結び、顔を赤らめたままコクコクと何度も強く頷いた
のだった。
「おおきに、冬獅郎。・・・ほんなら、今度は冬獅郎の身体、ボクに見せてくれる?」
「―――えっ!」
「好きになった子の裸、見たいと思うのは人として普通のことやろ? 冬獅郎はボクの身体触った
んやからボクにもキミの身体触らして欲しいんや。ダメやろか?」
「・・・・・・・そ、それは・・・」
市丸に小首を傾げて問われ、日番谷は暫し迷った。
正直な処、異性に自分の裸身を曝すのは恥ずかしい。
皆が畏怖の感情を抱く巨大な霊圧を持つとはいえ、自分が成人とは程遠い未熟な子供の身体だ
ということも充分に理解していた。しかし・・・。
(―――この人は俺のこと、好きだと云った)
市丸の言葉を思いだすと身体が熱くなり、胸の鼓動が早まる。
そしてなにより・・・
――――俺もこの人が好きだ!
この瞬間、日番谷の市丸に対する終生の想いが確定したのだった。
「判った! 俺も脱ぐ!」
叫ぶようにそう云うや、日番谷はすっくと立ち上がり、やや覚束ない手ではあるものの、なるだけ
急いで袴の腰紐を解きに掛かった。
どうやら一度思い切れば行動は迅速そのものらしい日番谷に、市丸が笑いを噛み殺す。
一刻も早くと焦る余り、逆に解けなくなった腰紐に苛立つ日番谷の手をやんわりと自分の白い手
で押さえ込んだ市丸は、相手の大きな碧の瞳を覗き込んで尋ねる。
「ボクの思い、判ってもらえて嬉しいわ。でも、どうせならキミの着物、ボクに脱がさせてくれへんや
ろか?」
「え?」
「そないに何もかもいっぺんに曝け出したらムードがないやろ? だからボクに任せてや」
綺麗な紅い眼でにっこりとそう云われ、自身に性体験のなかった日番谷だけに、まごつきながら
も「判った」と応えたのだった。
続く
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