地方行財政とヘンティー・アイマグ
村井宗行
本稿の目的は、地域社会(=地方)の行財政構造とその動態を解明し、その具体例としてヘンティー・アイマグにおける地域推進力をさぐることにある。
1 地方行政構造
地域社会(=地方)の動態をみる前に、その政治構造を説明しなければならない。
周知のように、モンゴルの行政構造は、21の「アイマグ」(「県」に相当、以後「アイマグ」と表記)からなり、その下部に「ソム」(「町」に相当、以後「ソム」と表記)、「バグ」(「村」に相当、以後「バグ」と表記)という縦割り構造を持つ。これに、特別市として首都「ウランバートル市」があり、この下部に「ドゥーレグ」(「区」に相当、以後「区」と表記)、「ホロー」(「町」に相当、以後「ホロー」と表記)がある。
すなわち、モンゴルにおける地方自治体地方の行政構造は、[アイマグ、ウランバートル市]、[ソム、区]、[バグ、ホロー]からなっている。
モンゴル国憲法(1992年)の規定では(注1)、「各地方自治体は自治と中央集権との結合した統治形態である」、とされる。すなわち、各地方自治体の「自治」が認められ、「各自治体は住民代表評議会(地方議会)および常設であるその幹部会によって統治される」(第59条第1項)。
この住民代表評議会(地方議会)は、モンゴル国最高立法機関である国家大ホラル(国会)が4年ごとに改選された後、1ヶ月して実施される。実際は、事務的な手続などにより、数ヶ月後になることがある。例えば、2004年実施の国家大ホラル(国会)議員選挙が2004年6月27日に実施され、住民代表評議会(地方議会)選挙は2004年10月17日に実施された。
各住民代表評議会(地方議会)議員の任期は4年で、選挙によって改選される(第59条第3項、)。これは国家大ホラル(国会)に準ずる。
各地方自治体の住民代表評議会(地方議会)はその首長を推薦し、首相はウランバートル市長とアイマグ知事を任命し、ウランバートル市長とアイマグ知事が区、ホロー、ソム、バグの首長をそれぞれ任命する。その任期は4年である(第60条第2項)。
すなわち、国家最高立法機関(国家大ホラル)によって最高行政機関(中央政府)首長(=首相)が推薦される、という権力構造が、地方自治体であるアイマグ、ウランバートル市とソム、バグ、区、ホローでも貫徹されているわけである。
こうして、モンゴルが中央行政府の首長である首相によって行政統治されるのと同様、各地方自治体は首長によって行政統治される(第60条第1項)。
また、モンゴル国行政法(1993年)では、(中央)政府はアイマグ知事の権限を監視し、中央集権を行うことができる(第12条第7項)、と規定している通り、地方自治体は中央政府によって大きく規制を受けている。
2 地方財政構造
次に地方の財政構造に移る。
Даш-Онолтын Дvгэржав, Монгол Улсын Санхvv, Банкны Эрх ЗvЙ, Улаанбаатар, 1999 によれば、
地方自治体は年度予算歳入歳出を持つ。すなわち、
アイマグ、ウランバートル市の予算歳入
(a)税収
1,アイマグ、ウランバートル市に居住する企業経営単位の所得税、付加価値税、特別税2,ウランバートル(居住)税
3,地下資源採掘料
4,地代
5,水資源使用料
(b)税収外収入
1,国有経営単位の収益
2,アイマグ、ウランバートル市所有資産の売却益
3,利息、罰金
4,その他の収益
ソム、区の予算歳入
(a)税収
1,ソム、区に居住する企業経営単位の所得税、付加価値税
2,国民の所得税
3,運輸・通行税
4,財産贈与税
5,不動産税
6,銃登録税
7,スポーツ、文芸施設の収益金
8,収入印紙料
9,狩猟魚釣り許可料
10,地下資源以外の資源採集許可料
11,自然に係る許可料
12,市場入場料
13,森林資源利用料
14,鉱物資源利用料
15,鉱泉利用料
16,その他の収益
(b)税収外収入
1,ソム、区居住の企業経営単位の所得税
2,ソム、区所有資産売却益
3,利息、罰金
4,その他の収益
アイマグ、ウランバートル市の予算歳出
1,資本投下
2,自然環境保護費、地下資源探査費
3,教育、科学、文芸、保健体育への必要経費
4,地方公務員給与
5,その他の費用
ソム、区の予算歳出
1,資本投下
2,自然環境保護費
3,社会、文化施設維持費
4,職員給与
5,その他の費用
すなわち、国家歳入歳出構造に相似の形で、地方予算歳入歳出が編成される。
そして、国家予算(案)が中央政府によって作成され、その首長である首相によって国家大ホラル(国会)で審議され承認されるのと相似形で、地方自治体予算(案)は、当該首長が作成する権限を持つ(予算法第51,52,53条)(同上書19ページ)。
一方、この予算(案)編成の特徴は、国家大ホラル(国会)が地方予算の規模を決定するということにある。さらに、アイマグ、ウランバートル市住民代表評議会(地方議会)がソム、区の予算規模を決定する(注2)。従って、国家予算と地方予算は密接な関連がある(25ページ)。(注3)は、融資によって支給されている。)
そして、下級地方自治体予算は、上級地方自治体首長によってその規模を削減される傾向にある(27ページ)。
その審議過程は、アイマグ、ウランバートル市住民代表評議会(地方議会)が予算案を承認した後、ソム、区住民代表評議会(地方議会)が予算案を審議し承認する(28ページ)。具体的に言えば、国家大ホラル(国会)が12月1日以内に国家予算を承認した後、アイマグ、ウランバートル市住民代表評議会(地方議会)が12月以内に地方予算を承認し、それを受け、ソム、区住民代表評議会(地方議会)が12月以内に予算を承認する(33ページ)。
このように、地方自治体財政は、国家財政に大きく依存する。
しかも、この地方予算は歳出が歳入を常に上回る赤字予算となっている。これを、Хэнтий аймгийн ХХI зууны Тогтвортой хθгжлийн хθтθлбθр, θндθрхаан хот, 2002 によってみてみると、
ヘンティー・アイマグ予算歳入歳出
1990年 1995年 2000年
歳入 72.5 618.9 1044.4
歳出 109.8 1792.1 4624.5
予算歳出に
歳入の占める
割合(%) 66.3 34.5 22.4
(43ページ。数字はそのまま)
また、Зvvн, Бvсийн Тогтвортой Хθгжлийн Хθтθлбθр, Улаанбаатар, 2003 で東部三アイマグをみてみると、
東部三アイマグの予算歳入歳出
アイマグ名 ドルノド
年度 1995 2000 2001
歳入(単位百万トグルグ) 804.9 8128.2 1579.6
歳出 1579.5 4301.5 4633.8
予算歳出に
歳入の占める
割合(%) 51.1 25.2 34.1
アイマグ名 スフバータル
年度 1995 2000 2001
歳入(単位百万トグルグ) 412.4 521.4 717.9
歳出 1629.0 3838.4 4055.9
予算歳出に
歳入の占める
割合(%) 25.3 13.6 17.7
アイマグ名 ヘンティー
年度 1995 2000 2001
歳入(単位百万トグルグ) 618.9 1122.4 1494.8
歳出 1792.1 4681.8 5336.4
予算歳出に
歳入の占める
割合(%) 34.5 23.9 28.0
(37ページ。数字はそのままだが、指標の一部誤りを訂正)
このように、地方財政は常に赤字になっている。そして、前掲書(Хэнтий аймгийн ХХI зууны Тогтвортой хθгжлийн хθтθлбθр, θндθрхаан хот, 2002)が述べるように、「予算歳出の原資は、その約30%を当該アイマグ予算歳入から捻出し、残りは国庫補助金によって(その赤字を)補填している」(1ページ)。
こうして、法制面からも実際の財洗面からも、地方自治体は上部団体である中央政府に「規制」(=従属)せざるを得なくなっている。
3 ヘンティー・アイマグ行政の特徴
ヘンティー・アイマグ行政の特徴をみるために、国家大ホラル(国会)議員選挙を分析してみる。ここでは、ガルシャル、バヤンホタグ、ダルハンを中心にする(注4)
ヘンティー・アイマグの国家大ホラル(国会)議員選挙結果(注5)
1992年
ガルシャル バヤンホタグ ダルハン
有権者数 1198 1054 1094
有効投票者数 1150 1021 1025
Д.ビャンバスレン
(人民革命党、後
民主復興党) 873 822 849
(75.9%) (80.5%) (82.8%)
Н.ガンビャンバ 615 541 538
(人民革命党) (53.5) (53.0) (52.5)
Ч.ガンウルジー 537 430 415
(46.7) (42.1) (40.5)
Д.ガンボルド 476 447 417
(民族進歩党) (41.4) (43.8) (40.7)
1996年
ガルシャル バヤンホタグ ダルハン
有権者数 1390 1067 3721
有効投票者数 1327 1033 3721
О.エンフトヤ 751 611
(民族民主党) (59.7) (61.1)
Ц.バルダンドルジ 312 322
(24.9) (32.2)
Ж.レンツェンアムガラン 1281
(36.8)
Н.トゥブシントグス 1865
(社会民主党) (52.1)
Н.ガンビャンバ 433
(23.5)
Д.ガンボルド 1323
(民族民主党)(71.0)
2000年
ガルシャル バヤンホタグ ダルハン
有権者数 1554 1152 911
有効投票者数 1327 1033 849
У.フレルスフ 508 538
(人民革命党) (39.5) (54.4)
С.ジャルガル 638 166
(49.7) (16.9)
Н.ガンビャンバ 479
(人民革命党) (57.7)
Н.トゥブシントグス 52
(6.3)
Д.アルビン 3261
(人民革命党) (44.0)
Ч.エンフタイバン 2887
(38.9)
2004年(暫定)(ウヌードゥル新聞2004年06月29日付)
Д.アルビン (51.2%)
(人民革命党)
Ж.オヨンバータル (48.54%)
Б.バトエルデネ (52.45%)
(人民革命党)
Д.ガンボルド (47.48%)
У.フレルスフ (50.97%)
(人民革命党)
С.ジャルガル (48.97%)
つまり、ヘンティー・アイマグの人々には、1992年には首相であったビャンバスレンと副首相であったガンボルドを支持した。ビャンバスレンは元来民主同盟寄りであった。ところが中央政府は人民革命党によって構成された。1996年には、人民革命党政府に反対し、当時野党の「民主同盟」候補者3人を支持した。2000年には、腐敗を極めたこの「民主同盟」連合政権を見限り、人民革命党候補者3人を選出した。特に当時最年少のフレルスフの当選が注目される。2004年には、人民革命党候補者3人が当選した。だが、それにバランスをとるように、2004年の住民代表評議会(地方議会)選挙(注6)では、「祖国・民主」同盟が多数派を占めた。その結果、「祖国・民主」同盟20人(注7)、人民革命党9人、無所属1人の構成となった。そこで、そこから推薦され、首相によって任命された民主党のジャルガルがアイマグ知事になって、2000〜2004年の人民革命党多数派時代のН.ガンボルドと交代した(http://gate1.pmis.gov.mn/khentii)。
このように、ヘンティー・アイマグは、首都ウランバートル市に近いせいもあって、中央政府の施政に直接影響を受け、特にそれは批判的な傾向となってあらわれている。
4 ヘンティー・アイマグ財政構造の特徴
地方財政構造は、ヘンティー・アイマグではどのようになっているかをみてみる。
2004年にヘンティー・アイマグ知事に就任した、ジャルガルの施政方針をみてみよう(注8)。
1)モンゴル政府の施政方針の実行
2)民主主義、公正、公開性の原則
3)民生の向上
4)アイマグの人的資源の有効活用
5)外資誘致
6)長期的展望(15〜20年)に立脚した施策
T、地域指導部、住民の参加
行政機構の統合
「Итгэлийн утас(行政電話)」設置
(注9)
モンゴル政府の「電子政府」計画の実行(コンピュータ55台設置)
全ソム、バグに施政方針通達
アイマグの人々延べ4500人と直接面談
日本との関係強化
U、社会政策
小規模営業者(150戸)に560万トグルグの融資
「хvvхдийн мθнгθ(子供に支援金支給)計画」により1万5000人の子供に支給(注10)
V、経済政策
家畜数の増加し160万頭に達した
第1回中小企業展覧会開催
W、自然環境保護
このように、ヘンティー・アイマグ知事ジャルガルは、中央政府の施政方針を忠実にヘンティー・アイマグで実行していることがわかる。
ところが、彼自身が「アイマグの施政方針を批判する新聞による非難中傷(がある)」、と述べているように、各ソムではこの施政方針は不評のようである。何故か。
ヘンティー・アイマグは、スフバータル・アイマグ、ドルノド・アイマグと共に、東部地域を構成する。当該地域は、将来、北東アジア地域構想の要諦になる。また、モンゴルの海洋への出口の起点となることが予想されている。
そのため、日本政府およびその下請機関も虎視眈々と「援助」に暇がない。一方、モンゴル側も、バガバンディ大統領が2005年1月29日から2月2日にかけて、ヘンティー・アイマグに地方視察を行って、将来を見据えた対策を立案している。
モンゴル発展のカギの一つは、中小零細企業の自生的発展にある。モンゴル政府ももちろんそれを自覚しており、商工業省が「中小企業支援基本計画」を策定し、中央・地方での会議・聞き取りを行っている。ヘンティー・アイマグでも政府とヘンティー・アイマグの中小企業主との集会が開かれた(2005年2月28日)。
その中で、ヘンティー・アイマグの中小企業主たちがその苦情を訴えていた。それによれば、
ロシアとの三大合弁企業の一つ、モンゴルロスツェベトメト社(注11)が1700万トグルグの飲料水利用料を地方予算に納入していないにもかかわらず、中小企業に課せられる付加価値税が高額である、国内産小麦粉の市場競争力が弱く、政府保護が必要である(中国やロシアの価格が40〜50%安価)(「ボーダイン・ツァツァル」社(農業)副社長)。
工場賃貸料(月額10万トグルグ以上)を払っている、自前の工場を建てるために融資を受けようと思うが、返済期間が短く、利子が高い(8%以上)、担保が必要である、設備を担保にできるようにしてほしい(「ヘルレン」飲料工場主)。
ウランバートルから建築資材を運んでいるので、運送料が高額である、地元に煉瓦工場が必要である(「バヤン・ウンドゥル・マナル」社長)。
3年前から営業している、設備更新が必要になっている、資金がない(「オラン・ヒーツ」木工工場主)。
この記事を掲載したウヌードゥル新聞(2005年03月01日付)は、<(ウランバートルの)大企業によって締め出されるヘンティー・アイマグの中小企業の訴え>という見出しを付けている。
ヘンティー・アイマグは、ウランバートル市から比較的近く、バガ・ノール中央電力網から電力が供給され始めた。ホルショー(協同組合)の活動も活発である。そのアイマグで、合弁大企業寄りの政策がとられる一方で、中小企業の発展が阻害されているのである。
ヘンティー・アイマグの人々の不満も募る。上述のように、国家大ホラル(国会)議員選挙(2004年6月27日)では、人民革命党がヘンティー・アイマグ3議席を独占したにもかかわらず、地方議会選挙では敗北した。その要因の一つが中小零細企業主の不満があったと考えられる。
では、この地方発展の起動力であるといってもいい「中小零細企業」にはどのようなものがあるか。われわれはその中のひとつとして、ホルショー(協同組合)の活動に着目した。
そこで、ヘンティー・アイマグ、ガルシャル・ソムを中心に活発に活動する、「ボヤント・オルギル・ボラグ・ホルショー(協同組合)」をみてみる。
このホルショー(協同組合)については、著者たちは2002〜2004年に調査をしていた。
2002年8月18日、「ボヤント・オルギル・ボラグ・ホルショー(協同組合)」理事長デリーラーは、すでに以下のように語っていた(面談調査による)。すなわち、
ネグデル(農牧業協同組合)が1991年に解体し、1658組合、12万4000頭が民営化された。
1993年に「ボヤント・オルギル・ボラグ・ホルショー(協同組合)」が設立された。その後、1998年に新ホルショー法が可決された。
当該ホルショーは、設立されてから10年後の2002年に、政府より表彰された。
その活動は、1)小売り、2)農産物卸売り(牧民から購入)、3)草刈してからの販売、4)トラック輸送、5)4バク、ソム・センター(=ガルシャル・ソム)にパン屋、ケーキ屋、バー設立、6)貯蓄、貸出し(新婚ローン、教育ローン、入院ローン)業務、などがある。
現在(調査時)、組合員は243人、家畜が12000頭、トラクターが5台、車が4台、小規模工場として、繊維、シャツ工場、羊毛加工工場(帽子製作)を所有する。
ホテルも開設予定である(2003年夏調査で、われわれはそのホテルに泊まった)。リゾート施設(季節、今後は通年に)の運営、競馬や結婚式などの主催など。
人材や専門家(会計、経済専門家)が多く、コンピュータを所有している。
1年間の総売上高が1億5000〜2億トグルグで、食肉売上もある。牧民所得(年間)が85万〜125万トグルグで、従業員所得(月間)が55000〜60000トグルグである。
1500万トグルグを国家予算に納入し、純益が1000〜1200万トグルグ。
組合員に配当が支払われている。
ホルショー所有家畜を遊牧する牧民と1年間請負契約している。
病院、幼稚園、ナーダム費用援助などに、30万〜50万トグルグ援助している(現金、労働、現物で)。
現金で車購入を購入したり、組合員に融資したりしている。
カシミアを共同で売っている。
インストラクターを招聘し、自動車運転を教える。
駿馬の売上が100万〜200万(300万)トグルグ(自動車1台に相当)である。
ラクダ改良(ウムヌゴビ・アイマグより)、山羊(ハイドラグ種)購入(バヤンホンゴル・アイマグより)も行っている。
組合員と非組合員との所得差が72〜120万トグルグになる。ボーナスとして、82万トグルグを支給している。
低利ローンを供与し、干草を40%価格で販売する。
加入資格は、加入申込書を組合員が話し合って承認する。入会費は5000トグルグ、最低組合費が1万5000トグルグで、外国人も加入可である。
「規約」についていえば、その「規約書」を著者は入手していた。それによれば(注12)、
その「前文」で、政府が2003年を「ホルショー(協同組合)発展支援の年」としたのを受け、さらには、「ホルショー(協同組合)連合」第4回大会決定を基にして、以下の規約を作成した、と述べ、四ヶ条に亘る規約(改正)を策定している。
1、理事会、経営方法改正、では、1.1、目標:節約し、収益をあげ、会計を確立し、各営業活動を改善する。1.2、欠点を隠さない。1.3、各自が責任を持つ。1.4、営業所責任者の責任。1.5、勤労者の責任。1.6、成果をあげる。1.7、意欲的に働く。1.8、各営業所はこの規約を理解する。
2、活動内容、では、1、コンピュータ研修、学校との連携。2、政府支援の「卸売ネットワーク」との連携(ドルノド・アイマグ、スフバータル・アイマグとの連携)。3、パン製造業の拡大。4、ガソリン・スタンド営業の改善。5、倉庫業の改善。6、寺廟改修への参加。7、ジャガイモ、野菜栽培。8、フェルト製造。9、広報活動の強化。10、店舗、バーの改修。11、ウランバートル市、ウンドゥルハーン市(アイマグ・センター)に支店を置く。
3、農牧業生産、では、1、ホルショー(協同組合)所有家畜を2003年に一万頭にする。2、家畜種改良。3、酪農工場をソム・センター(ガルシャル)につくる。4、乳製品の生産委託。5、ホルショー(協同組合)所有家畜への烙印の実施。6、家畜小屋建設のための資材の準備。7、家畜小屋のための資材の製造。8、飼料用牧草300〜500トンの準備。
4、その他、では、1、ヘンティー・アイマグ、スフバータル・アイマグ、ドルノド・アイマグ、トゥブ・アイマグが参加する「ホルショー(協同組合)東部地区連合」に参加する。2、組合員の借入金を60%下げる。3、研修を年4回行う。4、総会を2003年3月初めに開催する。5、6、省略。
組合理事長Н.デリーラー(署名)
さらに、2003年8月4日にわれわれが行った調査では、
ボヤント・オルギル・ボラグ・ホルショーは、 建築材料販売店を設立し、ウランバートルから車2台で買付け、冬も開店している。
自家発電のホテルも設立した(上記のように、著者たちはそのホテルに宿泊したわけである)。
ホルショーのためのセミナーを開催した。
羊毛は買付け時期を見て(高価な時に)売る。羊毛加工は個人ゲルでして、ホルショーへもってくる。
このように、当該ホルショー(協同組合)は指導者の資質を含めて着実に発展しているようだ。組合理事長Н.デリーラーは、大変意欲的な人物で、指導力がある。2001年にはモンゴル国経済功労者に選ばれている。
彼の娘は、ウランバートル市の「財政経済大学」で経営学を学び、Uターンして、ガルシャル・ソム唯一の銀行である農牧業銀行の支店長として、ソム住民のための銀行業務をこなしている。
こうした活動が地方に根を張れば、モンゴルの将来は明るいだろう(注13)。
さらに、このヘンティー・アイマグの発展を支える起動力として、ウランバートル市在住のヘンティー・アイマグ出身者からなる「ふるさと委員会」の地道な活動もある。
この「ふるさと委員会」は、私たちが調査したバヤンホタグ・ソムにもガルシャル・ソムにもあった。
ガルシャル・ソム第5バグ(ジャルガラント・ブリガード)では、バグの事務所兼集会所を建設しているが、給料は支給されない。「ふるさと委員会」のウランバートル市在住の人々が献金してその資金をまかなっているという(注14)。
同じく、バヤンホタグ・ソムでも、「ふるさと委員会」の活動が活発で、「ふるさと委員会」は、優秀な先生を招聘する計画を支援しているという(注15)。
さらに、著者の知人であるモンゴル国立大学社会科学学部教授バトチョローン氏は、バヤンホタグ・ソム出身の若者たちを自宅に下宿させて、大学に通学させている。
5 まとめ
地方行政構造は、「アイマグ、ウランバートル市」ー「ソム、区」ー「バグ、ホロー」によって成立する。その中で、住民代表評議会(地方議会)議員が4年ごとの選挙によって選出される。彼らが首長を推薦する。であるから、地方住民の選挙結果に大きく影響される。これは地方自治の基本である。
ところが、その地方行政府の首長は上部団体の首長によって任命され、中央政府の施政方針の実施を義務づけられている。
一方、財政構造もまた、アイマグ知事によってその財政計画が立案されるが、これもまた、中央政府の財政政策の施行を義務づけられている。
こうして、地方住民と中央政府が、行財政政策において齟齬を生じる余地がある。その典型がヘンティー・アイマグにみることができる。
ヘンティー・アイマグは、東部地域の要諦である。さらに、首都ウランバートルに比較的近く、「ふるさと委員会」の活動を通して、ウランバートル住民との結びつきが残存し、政治的に敏感である。
また、経済的には、中小企業主の活動が活発で、ホルショー(協同組合)が成長している。この活動が、外資導入による大規模企業体と衝突し、矛盾を激化させている。それがさらに、政治に反映し、時の政府に対する反対機運を醸成する。こうして、ヘンティー・アイマグの反政府的機運がヘンティー・アイマグを動かしていっている。
注
注1 モンゴル憲法については、入門書として、Ж.Амарсанаа, Д.Сарантуяа, НЧимгээ, Д.Гангабаатар, Б.Амарсанаа, Хуульчдад Зориулсан Англи Хэл (Сурах Бичиг), 2004 などが有益。
注2 Нээлттэй Нийгэм Форум, Орон Нутгийн Тθсвийн Vйл Явц, Улаанбаатар хот, 2005、21ページ。以下同じ。
注3 実際は、地方予算が法定の期間(1月末日)に作成されないため、予算歳出(職員給与など)は、融資によって支給されている。
注4 筆者たちは2002年から20005年にわたって実地調査をした地域である。党名を記した人物が当選者。
注5 Сонгуулийн Ерθнхий Хороо, Ардчилсан Тθрийн Сунгуулийн Товчоон, Улаанбаатар, 2002 による。
注6 定数は30人。
注7 「祖国・民主」同盟は解散したので、2006年時点では民主党18人、祖国党2人となる。
注8 http://gate1.pmis.gov.mn/khentii、による。
注9 このИтгэлという用語は「祖国・民主」同盟の選挙公約で使用されたもの。
注10 この政策は、エルベグドルジ政権(2004〜2006年)の目玉となっている政策である。
注11 当該会社は、モンゴル・ロシア合弁企業。モンゴル政府持ち株51%、ロシア政府持ち株49%。すなわち、モンゴル最大の国家予算納入企業エルデネト社と同じ形態。ボルウンドゥル・ソムにある。ボルウンドゥル・ソムは、2002年、ダルハン・ソムから分離し、ボロルウンドゥル市として独立し昇格した。
注12 その会議が、ボヤント・ボラクで2003年01月20日に開催され、決議された。
注13 なお、詳細は、筆者のWEBサイト http://www.aa.e-mansion.com/~mmurai/ 参照。
注14 2003年8月14〜16日のガルシャル・ソムでの聞き取り調査。
注15 2003年8月19日のバヤンホタグ・ソムでの聞き取り調査。
(c)著作権所有 村井宗行
