ガチャリと、鍵を下ろした音がやけに大きく響いた。

「―――で、どうやってこの俺を泣かすって?」

 挑戦的に腕組みしたまま斜に睨みつけてくる冬獅郎に、俺はニヤリと笑った。

「あんたSMプレイって知ってます?」

SM?・・・てめぇこの俺を拷問する気か、いい度胸だな」

「いや、いや、いや! ・・・SMは拷問とは違いますから」

 これには流石に慌てて否定した。世俗に疎い冬獅郎の中で、SMというものがどういう誤解をさ

れてしまったのかと心配になる。

「何が違うんだ? お前、俺を鎖で繋いで鞭で打ち据えたいんだろ? それに蝋燭垂らして・・

・」

「違いますって! 人の話聞いて下さいよ」

 心配が的中して、なにやらとんでも勘違いをしているらしい冬獅郎に待ったを掛ける。

「俺があんたとヤリたいのは恥辱プレイの方だから、痛い思いなんてさせませんよ。まぁ、緊縛

と異物挿入はさせてもらいますけど」

 俺は瀞霊廷から肩に担いで持って来たディバックの中からシートを取り出して畳の上に広げ、

冬獅郎にそこに座るようにと即した。

 そして不承不承という表情のまま、浴衣の裾を捲り上げて座った冬獅郎に、やはりディバック

の中から出した一本のバイブを手渡す。

「これ、自分で挿れてあんたの穴を慣らして下さい。俺は色々と準備が忙しいんで」

「・・・何始める気か知らねぇが、気が乗らねぇな。―――普通のセックスじゃダメなのかよ」

 アナル用の細身のバイブを受け取りながらも、冬獅郎は眉間の皺を深くする。

「ダメです。あんた、市丸隊長から何でも俺の云うことを聞くようにって云われたんでしょ? 

だったら俺に従って下さいよ」

「ちぇっ。だからって、なんでこんなモンを自分でてめぇのケツに挿れなきゃなんねぇんだ」

「俺に挿れて欲しいんですか?」

「そういう意味じゃねぇよ。お前、分かって云ってるだろ」

「ええ。いいじゃないですか、それくらいしてくれても。・・・知ってましたか? 昔の陰間茶屋

の色子達は、いつでも男を受け入れられるように常に後ろの穴に木片を仕込んでたんですよ」

「そんなの俺に関係あるか、馬鹿野郎」

 文句を垂れながらも冬獅郎は足を開き、下穿きを外すと、バイブの透明なラッピング・テープ

を剥がし、ゆっくりとそれをアナルに押し当て、飲み込んでいく。

 それを横目で見ながら、俺はまたディバックからこの日に備えて準備した様々なグッズを出し

てシートの上に並べた。

 その中からかなり長さのある二本の黒いロープとレザーの光沢を反射させる首輪、そして細い

鎖を手に持って、冬獅郎へと近づいた。

「・・・んん・・・っ」

 バイブを根元まで飲み込んで悩ましい吐息を漏らす冬獅郎の身体から浴衣を脱がせ、座った姿

勢のまま大きく開脚させ、膝を曲げさせた体勢で右手首と右足首をロープで纏めて縛り、膝と肘

も同時に固定する。更にそれを股の辺りで留め、もう一本のロープで反対の手足も同じ要領で縛

り上げた。

 俗に云う開脚縛りと云うものなのだが、結果として冬獅郎の身体は自分では足さえ閉じられず

ゴロリと転がるのがせいぜいだと云える程に規制され、かつファックする側としてはなんの不都

合も無いという理想の形を取っていた。

「どこも痛くは無いでしょう? あんたの為にわざわざ黒絹を寄り合わせた縄を特注したんです

よ。お陰で給料の三ヶ月分は飛びましたけどね」

「―――んなの、頼んでねぇよ」

「ははっ・・・でも、白い肌に黒絹が映えて凄く綺麗ですよ。鏡で見ますか?」 

俺は部屋に備え付けられている姿見を冬獅郎の前まで運んできた。

そして「止せ、馬鹿、この野郎、向こうへやれ」と云う罵声を聞きながら、荷物の中でも一番

重量がかさんだビデオを三脚に固定してスイッチを入れ、小型のアタッシュケースを提げて冬獅

郎の側へと戻った。

「てめぇ、俺のこんな姿を映像に撮るつもりかよ」

「つもりじゃなくて、もうテープは回ってますよ。好い貌して下さいね。それと、これも着けさ

せてもらいますから」

 俺は冬獅郎の細い首にこの日の為に選びに選び抜いた首輪を着け、その首輪に細い鎖を提げる

そしてその鎖の先を部屋の太い柱の一つに括り付けた。

 冬獅郎は鎖の付いた首輪を嵌められ、足を大きく開いたまま黒絹の縄で四肢を封じられて、ア

ナルにはバイブを咥え込み、紅潮した頬のまま此方を睨みつけている。

 

あぁ! なんて淫陶な眺めだろう。俺は自分の作品の出来栄えに満足し、これからの展開に胸

を高鳴らせた。

 

「こんなことがお前のしたかった事なのか?」

ややあって問うてきた侮蔑や蔑みを伴わない純粋に呆れた声に、俺は口角を上げてみせる。

「勿論まだ準備段階ですよ。なにせ夜は長いんですから、俺の『真夏の夜の夢』に朝まで付き合

ってもらいますよ」

 そう云いしな冬獅郎の頤に手を掛け、唇を合わせれば、いつもと同様に舌先が迎え入れられた

意外な従順さに少し驚いて閉じていた眼を開ければ、其処には好奇心を宿した翠が笑っていた。

「・・・いいぜ。お前のお遊びに付き合ってやる。だがその前に、俺の伝令神機を持って来い」

「―――それは・・・」

「云うことを聞け、―――檜佐木!」

「・・・・・はい」

 有無を云わせぬ静かな迫力に、俺は唇を噛み締めて踵を反し、冬獅郎の少ない荷物の中から銀

色の伝令神機を取り出して冬獅郎の側に置いた。

 もし何事かの緊急事態が生じれば、この人は俺が施した束縛など一瞬で引き千切り、十番隊の

隊主として馳せ参じるつもりなのだろう。

「それで良い。――後はお前の好きな様にしろ」

「・・・はい」

 先ほどまでの高揚感が一気に萎えた俺は、それでも気持ちを切り替えるべく冬獅郎の身体に手

を伸ばした。

 

 

 

 ツプッ―――と粘膜の摩擦の音を共に、俺は冬獅郎の内から細身のバイブを引き抜いた。

「・・・ん・・・っ」

快楽に慣れた冬獅郎の敏感な内壁は、みちっりと咥え込んでいたモノを失って不満げにヒクヒ

クと物欲しげにひきつき、俺の眼を愉しませてくれる。

「直ぐに変わりのモノをあげますから、ちょっと我慢して下さいね。今のよりずっと太くて長い

美味しいご馳走を食べさせてあげますよ」

 俺はアタッシュケースの蓋を開け、その中から小瓶を取り出して冬獅郎に見せた。

「これ、なんだか分かります?」

「・・・どうせロクなモンじゃねぇんだろ。媚薬、いや催淫剤か?」

 小瓶の中身のベビィ・ピンクのカプセルを見て冬獅郎は顔を顰める。

「まぁそんなとこですよ。でも紛いモノが横行してるご時世で、こいつは掛け値無しのホンモノ

ですよ。なにせあんたに合わせて技局に調合を頼んだんすから」

「・・・・・阿近か」

「それはご想像にお任せしますよ」

 そう云い置いて俺は冬獅郎の身体をゴロンとシートの上に倒し、更にうつ伏せの状態にした。

腕と足を同時に固定されている冬獅郎の身体は肩と膝のみで支えられ、尻は無防備に突き出され

ている。

 無意識に喉がゴクリと鳴った。冬獅郎の艶姿に半立ちになったペニスを今すぐ扱いて冬獅郎の

内に突っ込みたい! ・・・冬獅郎とて嫌がらないだろう。だが、今日はより長くエクスタシー

を味わおうと決めていた。その為にあらゆる準備をしてきたのだから。

「―――入れますよ。良いですよね?」

「・・・・・」

 無言を肯定と取って、二センチ程のカプセルを一つ小瓶から取り出し、冬獅郎のアナルに挿入

する。ついでとばかりに二本の指で内壁を慣らす様に掻き回せば、切ないような甘えた声が冬獅

郎の口から漏れ出た。

「あ・・・んっ。・・・そんなモノ、使わなくたって、俺は・・・」

「ええ。あんたが俺に応えてくれる気でいるのは判ってます。でも俺は、今日という日を後悔な

く愉しみたいんです。だから俺の我が侭を聞いて下さい」

 俺は先程冬獅郎のアナルを犯していたのとは別のバイブをケースから取り出し、冬獅郎の目前

に晒した。

「ほら、今度はコレをご馳走しますよ。美味そうでしょ?」

「・・・・・っぅ・・・」

 冬獅郎の翠の瞳が驚愕と怯えに見開かれるのを、優越感にも似た思いで見下ろす。

 それは通常のバイブより二周り程太く、表面の半ばまで丸い突起がずらりと並んで黒光りをし

ているシロモノだった。

「・・・冗談はよせ。んなデケェの挿いんねぇよ」

 あくまで強気で睨みつけてくる冬獅郎を俺は余裕の笑みでかわす。

「大丈夫ですよ。さっきのクスリには身体を惰張させる作用があるし、元々人の直腸なんてちゃ

んと慣らせばビール瓶の底くらいは楽に開くんですよ。あんた知ってます? 水死体なんて・・

・」

「分かった。分かったからグロい話は止めやがれ」

 意外なことに凄惨な戦場を見慣れている筈の冬獅郎は、この手のイタい話はダメらしい。これ

は思わぬ発見だった。

「それじゃ遠慮なく」

「――――・・・ぅ!」

 即効性のクスリの作用で多量の分泌液を排出している冬獅郎のアナルは、然したる苦労もなく

デカイ亀頭の部分を飲み込み、ずぶずぶと残りの部分も身体の内に取り込んでいく。

「ほら、簡単に挿ったじゃないですか。あんたの真っ白な尻が真っ黒なデカブツに犯されてると

こ、よく撮っときますね」

 俺は回しているビデオの邪魔にならない様、アングルに気を付けながらも、ケースの中からデ

ジカメを出し、至近距離から淫猥な局部を何枚も激写した。

「・・・ぁん・・・」

圧迫感と突起からの刺激で身悶えしている冬獅郎をさらに悦ばす為、バイブのスイッチをオン

にすれば、途端に細い身体が跳ね上がり、腰が激しく前後左右に揺れ始める。

「はっ! ・・・ぁ・・・・・ああっ! ・・・やぁ!」

 肩と肘のみで身体を支える不自由な体勢で、背後から思う様突かれ、喘いでいる冬獅郎の踊る

身体に合わせて首輪に付けた細い鎖がカチャカチャと鳴り、視覚と共に聴覚をも愉しませてくれ

る。

 

あんたは今や完全に俺の獲物だ、冬獅郎!

 

高鳴る鼓動に胸を熱くしながら俺は冬獅郎の身体を抱き起こし、差し向かいに座らせた。

その間も冬獅郎は高い喘ぎ声を漏らし、腰を振り付け、感じ入っている媚態を隠そうとはしな

い。

「俺、今日の為に色々揃えたんすよ。そしてこれが最終兵器です」

 俺がケースの中から最後に取り出したのは、掌に収まる位の、厚さは三センチもないであろう

桐の小箱だった。その蓋を開けるとまさに真綿で包まれた、極細の綿棒の様なモノが収められて

いる。ただし、普通の綿棒と違い、それは銀の輝きを放っていた。

「・・・あ・・・ぅ・・・・・それ、なに・・・を・・・」

 内部からクスリに、外部からはバイブに犯されて、思考力も支障をきたしたのか、とろんとし

た目付きで問い掛ける冬獅郎に俺は愛想良く笑う。

「あんた、尿道プレイは経験無しですよね? ―――――俺がその快楽をあんたに教えて上げま

すよ。・・・骨の髄までね」

 俺は、完全に勃起して先走りの淫液を垂らして射精の瞬間を待ちわびている冬獅郎のペニスの

頭の小さな穴に、その銀の棒を少しずつ差し込んでいった。

「―――――あああああぁぁ!」

 部屋に冬獅郎の絶叫が響いた。瞳孔も最大限まで見開かれている。

「―――どうです。痛くはないでしょう? ・・・それどころか、ほらこうやって・・・」

 俺が銀の棒をグリグリと回せば、冬獅郎の身体は一瞬硬直し、次いで激しく悶え始めた。

「・・・・・ああぁっ・・・ああ―――っ! ・・・い、イヤ―――」

「『イヤ』じゃないでしょ。『イイ』でしょ? ・・・いつもみたいに素直になんないんなら、

コレ抜いちゃいますよ」

 脅しを掛ければ白銀の頭が激しく左右に振られる。

「やぁ! ・・・抜かないで、ああ・・・っイイ! ・・・・・コレぇ、イイ!」

「そうでしょ? コレもあんたの為に俺が特注したモノなんですよ。なにしろホンモノの銀を使

って作らせたんすから。人体はどういう訳が銀と相性が良いんだそうですよ。他の安物の金属じ

ゃ、こんなに好くはありませんよ。ねぇ、俺がどれだけあんたに夢中なのか、どれだけあんたを

愛してるのか、これでよく分かったでしょう?」

 道具自慢ついでに愛情の押し売りをした俺は、快感に支配されて返事すら出来ない冬獅郎の幼

いペニスを万遍なく舌で舐め上げ、その下の二つの可愛らしい睾丸も口に含んであますところな

く愛撫した。

「あ――――! ・・・ああっ! ・・・・・イイッ・・・イイ! ―――もう、イクっ!」

「まだダメですよ。まだ、全部は挿れてないし、それに俺もまだですしね」

 俺は再びデジカメのシャッターを何度か切った後、ぶっといバイブをいきなり冬獅郎の胎から

引き抜いた。

 ズブリ・・・、と粘膜と粘液が奏でる淫猥な音と共に冬獅郎が悲鳴を上げる。

 いつもなら俺のモノを引き抜く衝動で射精することに慣れている冬獅郎だが、銀棒を差し込ま

れているせいで射精が適わず、その衝撃はそのまま大きな反動となって幼い身体を駆け巡ったこ

とだろう。

 そんな暗い悦びにこれ以上なく勃起した俺は、今まで身に着けていた浴衣を脱ぎ捨て全裸にな

り、冬獅郎を再びうつ伏せにすると充血しきったペニスをひくつく冬獅郎のアナルに押し当て腰

を進めた。

「・・・あぁ・・・ん、・・・・・檜佐木!」

「『檜佐木』じゃなく、『修兵』って呼んでくれる約束でしょ?」

「・・・・・んぁ・・・イイっ、修兵」

「あんたもたまんなくイイですよ、みっちりと咥え込んでるくせに、ナカは嘗め回されてる感じ

がたまらない。マジ、男にヤラれる為に生まれてきたような身体だ。―――ねぇ、俺とバイブじ

ゃどっちがイイですか?」

 激しく腰をグラインドしながら聞けば、感極まった冬獅郎が擦れた声で呟く。

「あん・・・あ、お前のがイイ。―――お前が好き!」

「よく云えました。ご褒美を上げますよ」

 俺は銀棒の残り半分をグリグリと回しながら冬獅郎の鈴口に差し込んだ。それだけではなく、

差し込んだモノを上下に出し入れさせる。

「あっ! はぁああ・・・つ! ―――ダメ! もうダメ! ・・・い、イカせて、修兵!」

 翠の大きな瞳に涙を湛え、必死に哀願してくる冬獅郎が可愛くて、愛しくてならない。

冬獅郎が誰を一番に想っていようが、今この時は冬獅郎の中にいるのはこの俺だけだ。

 

そう、今は俺だけの冬獅郎だ。

 この何物にも替え難い征服感と支配感!

 

だが、冬獅郎の度重なる哀願を聞きながらも、銀棒をいじり廻す手を止めずに腰を打ち据えて

いた俺は、突如啜り泣きのような声を聞いてギョっとした。

「―――冬獅郎?」

 俺は慌てて冬獅郎の胎からペニスを引き抜き、仰向けにして、真っ赤に染まった貌を覗き込んだ。

「・・・うぇ・・・・・ひっく・・・ううっ・・・」

 焦点の合っていない翠の瞳からぼろぼろと大粒の涙を流し、口元から涎を滴らせて、冬獅郎は

短い間隔で痙攣を起こしていた。

「冬獅郎!」

『しまった』と、思った。俺はつい調子に乗りすぎたのだ。冬獅郎の性格がどんなに老成され

たものであれ、快楽に慣れた身体を持っていたとしても、所詮は成熟していない幼い者なのだと

いうことをうっかり失念していた。自分の快楽を優先し、冬獅郎への配慮を怠ったことを激しく

後悔する。

「い、今、抜きますから・・・」

 俺は震える手で銀棒をそっと引き抜いた。そして、やんわりと冬獅郎のペニスを手で擦れば、

とくとくと塞き止められていた半透明の白い精液が溢れ出してきた。

「―――ああぁ・・・あ―――――っ」

 最後の一滴まで出し尽くそうとカリの部分を親指の腹で扱いた俺の耳に、冬獅郎の甘い声が響

く。甘い、甘い声が・・・。

 

 

 

「―――大丈夫ですか?」

 縄の戒めを解き、激しく胸を上下させていた冬獅郎の身体の震えが治まるのを待って問い掛け

れば、ややあって、低い声が返ってきた。

「・・・水」

「はい!」

 俺は部屋に備え付けられていた冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルをひっつかみ、

キャップを外して冬獅郎に差し出した。

 汗の滴る前髪を鬱陶しそうに掻き揚げながらミネラルウォーターをゴクゴクと飲み干し、一息

付いた冬獅郎はギロリと俺を睨み付けてきた。

「・・・・・馬鹿野郎。猫や犬だって、降参の合図を見せたらそれ以上はやんないってのに」

 怒ってはいないようだが、呆れはてたという声色に、俺は素直に謝罪した。

「・・・すんません。あんたがあんまり可愛くて、つい調子に乗りすぎました。でも言い訳する

訳じゃありませんけど、どんな男だってあんたに突っ込んだが最後、理性なんて持ちませんよ」

「―――ふん。もうビデオを止めろよ。まったく、こんな俺の姿を撮ってどうしようってんだ」

「そりゃぁ、あんたに会えない日に自分で抜く為ですよ」

 正直に答えれば、冬獅郎は本気で不思議そうな貌をした。

「お前、モテんだろ? 女にも、男にも。松本が云ってたぞ。だったら生身の相手の方が好いん

じゃないか?」

 これには苦笑するしかない。

「・・・あんたを知った後に、誰を抱けるってんです?」

 確かに俺は自分で云うのもなんだが、セックスの相手に不自由した事はない。だが、目の前の

相手に出会ってからは、他の者の誘いに乗らない事は無いにしろ、自分からは一切手を伸ばす事

が無くなった。

「・・・・・ふん。好きにしろ」

「はい。あの・・・」

「あん? なんだ?」

「・・・俺のこと、キライになったりしませんよね?」

 ビデオの電源を落とした俺は、恐る恐る冬獅郎の顔色を伺う。

 冬獅郎は縄で縛られていた時の血行を取り戻そうかというように、腕や足首を擦りながらチラ

リとこちらに視線を寄越してきた。

「そうだな。どうするかな・・・」

「反省してますから! この通りですから、ねぇ?」

 情けなくも両手を擦り合わせる俺に、冬獅郎はクスリと笑う。

「股の間を膨らませたまんまで情け無い顔すんな、馬鹿」

 冬獅郎はくすくすと笑いながら、俺の首にその細い腕を廻してきた。

「勘弁して貰えるんすか?」

 冬獅郎の身体を抱き返しながら尋ねれば、「次からは、ちゃんとイカせてくれよな」と耳元で

囁かれ、俺の萎んでいた気分は急浮上した。

 ああ、世の中にここまで俺を上げ下げ出来るのはホントにあんた一人だ、冬獅郎!

 俺と冬獅郎は、そのまま朝方まで何度も何度も愛し合った。

 冬獅郎の首輪も鎖もそのままだったが、冬獅郎が何も云わないのを好い事に俺は倒錯的な気分

を味わいながら、十二分に愉しみ、冬獅郎も愉しませた。

 

 

 

 

 

「くれぐれも忘れ物はするなよ」

「分かってますよ。あんたこそ手伝ってくれる気がないんなら、大人しくそこら辺に腰掛けて居

て下さい。ウロウロされたら邪魔なんですよ」

 思い様に身体を交えて、気を失うように眠りに就いた俺達は昼近くになって漸く目覚め、露天

風呂で昨夜の情交の後を洗い流し、朝食兼の昼食を取って、今帰り支度をしていた。

「お前、こんなにいろいろと持って来てたのか」

 蓋の閉じられていないアタッシュケースの中を覗き込んだ冬獅郎が驚きの声を上げる。まぁ確

かにバイブが十本も入ってたら誰だってびっくりするだろうと、俺はビデオを片づけながら苦笑

で応えた。

「あれこれと買い込んだのはイイんすけど、結局どれを使おうか迷って全部持って来ちまったん

すよ。ま、昨日使わなかったモノは次回のお楽しみというコトで」

「ふぅ〜〜〜ん。なぁ、コレ、俺に一本くれないか?」

「勿論いいすよ。どれでも好きなのを取って下さい」

 俺は破顔して応えた。まさか冬獅郎がバイブを欲しがろうとは思ってもみなかったことだ。意

外なことにバイブでのプレイがお気に召したのだろうか。だったら・・・

「良かったらこっちも持って行きますか?」

 昨夜、冬獅郎の鈴口に差し込んで散々泣かせてしまった銀棒を小箱と共に差し出せば、眉間に

皺を寄せたいつもの見慣れた表情で暫し悩んでから、首を左右に振った。

「それ、純銀なんだろ? そんな高価なモノは貰えねぇよ」

「構いませんよ。もともとあんたを悦ばせたくて買ったモノです。今度は市丸隊長と使ってみて

下さい。きっと俺との時よりもイイでしょうから」

 市丸さんなら俺と違って暴走することもないのだろうと、少しの悔しさと情けなさを感じつつ

も笑顔で差し出す俺の手を、小さな両手が優しく包み込んだ。

 

「いいんだ、修兵。それはお前が俺の為に選んだモノだ。だから、それが欲しくなったら俺がお

前の元に行く」

 

 そう云って、にこっ・・・と悪戯っぽく微笑んだ冬獅郎の小さな身体を、俺は至福の思いで抱

きしめたのだった。

 

 

 

 

 

「おかえりなさい、隊長。修兵との一泊旅行は楽しかったですかぁ?」

 三時のおやつ時に護廷隊の十番隊執務室に戻って来た日番谷を迎えたのは、団子を頬張りなが

らの松本乱菊のぽやっとした声だった。

「まぁな。・・・俺がいない間、十番隊に出撃要請はなかったんだろうな?」

 自分の伝令神機に着信がないのを確認の上で聞いた日番谷に、乱菊は舌を見せた。

「それが、昨日の夜遅くウチの受け持ち区域に『大物』が出ましてぇ・・・」

「なんだと!」

 日番谷が顔色を変える。乱菊が云う『大物』とは即ち『大虚』のことだ。到底下位の死神が相

手を出来るわけはなく、おのずと隊長格が出向くことになる。

「それでどうした? なんで俺に連絡しやがらねぇんだ!」

 拳で机を打ち据える日番谷の剣幕に、乱菊は肩を竦める。

「そんな怒んないで下さいよう。仕方ないじゃないですか、あたしの伝令神機はギンの奴に取り

上げられちゃったんですから。でも、大虚もギンがちゃんと片付けてくれたし、問題はありませ

んて」

 明るく云い切る乱菊に「お前なぁ・・・」と日番谷が唸る。

「それはそうと隊長、良い子にしてたあたしに何かご褒美はないんですか?」

 平気で上司に土産物の催促をする部下に、日番谷は溜息を吐く。

「・・・お前にコレをやるよ。こんなのを前から欲しがってたろ?」

 日番谷が懐から出し、乱菊に放って寄越したのは、宿を出る前に檜佐木から貰ったバイブだった。

「貰いもんだが、梱抱してあるからには新品だろ」

「あら、嬉しい! ありがとうございます。じゃあ隊長、早速今夜、コレを使ってあたしと愉し

みましょうよ」

「はぁ〜〜? なに云ってんだお前、そんなもの一人でやれ!」

「隊長こそ、なに云ってるんです。あたしは隊長に使う為にバイブが欲しかったんですもん」

 

「―――――――返せ!」

 

「いやでぇ〜〜〜す。頂いたからにはコレはもうあたしんでぇ〜〜〜す!」 

地を這う様な日番谷の声にもメゲず、乱菊はあくまで明るい。

自分に取り上げられるのを防止しようというのか、豊かな胸の谷間に通常のモノよりもずっと

大きい黒いバイブを差し込んで笑う乱菊に、日番谷は重度の頭痛を感じ、机に突っ伏しそうにな

るのを必死に堪えた。

「・・・松本、俺は暫らく男はいらねぇ。向こうでさんざんヤリ溜めしてきたからな」

「あら、そんなこと云ったら恋次の奴が可哀相ですよ」

「―――――? 云ってる意味が分かんねぇんだが」

「あ、知りませんでした? 今月の末日は恋次の誕生日ですよ。まぁ約二週間後ということです

ね。その十日後はいよいよの真打ちで、ギンの誕生日ですしね」

「・・・・・・・」

「愛人は平等に可愛がらないとダメですよ、隊長。ましてや恋人はねぇ・・・」

「・・・・・・・・・」

 

十番隊の執務室はその日一日、日番谷から漂う重い空気に満たされたのだった。

 

 

 

 

 

「―――ええ、そうなんです。檜佐木先輩は山の方へ行ったんでしょ? だったら俺は海の方へ

行きたいなと思ってるんです。日番谷隊長も解放的になって、いろいろ愉しんでくれると思うん

スよね」

「ふん。ふん。・・・ほな、そういうふうに手配しとくわ」

「よろしくお願いします!」

 

 市丸隊長の霊圧を探って護廷隊の敷地内を歩いていた俺の耳に、喜びに溢れる元気の良い阿散

井恋次の声が聞こえてきた。

「探しましたよ、市丸隊長。・・・阿散井も一緒だったのか」

 二人が並んで腰掛けている木陰の倒木に近寄り、挨拶する。

「おかえり檜佐木クン。首尾よういった?」

「おかげさまで愉しませて貰いましたよ。コレ、土産です」

 俺は昨夜のビデオフィルムをCDにコピーした物を、手に持っていたファイルから取り出して市

丸隊長に差し出した。

「おおきに」

 中身のおおよその見当はつくのだろう、市丸隊長はニンと笑ってそれを受け取った。

「阿散井にも同じモノをやっても構いませんよね?」

 まさに指を咥えて物欲しそうにしている大柄な後輩に視線を移せば、「勿論ええよ」と市丸隊

長の即答が返ってきた。

「やった! ありがとうございます!」

 感激も露な阿散井に、市丸隊長と二人顔を見合わせてふっふっふっと笑う。

 その時、市丸隊長の伝令神機が鳴り響いた。

 

「・・・イズル、どうしたん? ええ、出動要請? 難儀やなぁ・・・ボクあんまり寝てへんの

に・・・・・わかった! わかったわ。・・・そない怒らんでもええやん。すぐ行くよって・・

・・・うん」

 

「大虚でも出ましたか?」

「ビンゴや、檜佐木クン。まったく昨日の夜に一匹片付けたばかりなんになぁ、流石に盂蘭盆会

ちゅう訳か。・・・ほな、ボクはこれでお暇するわ。阿散井クンの件は、ちゃんと手配しとくよ

って安心してや」

「はい。お願いします!」

 阿散井が勢い良く頭を下げるのを待たず、市丸隊長は瞬歩でその場から消えた。

 

「相変わらずあの人の瞬歩は見事ですね」

 感嘆する阿散井に俺も頷く。

「しかし三番隊は不運だな。連日大虚の相手なんて」

「いえ、昨日の大虚は十番隊に出撃要請があったんです」

「なんだと! 本当か?」

「ええ。でも日番谷隊長は不在だし、どうしようかって時に、市丸隊長が来てあっさり片付けて

くれたらしいスよ。お陰であの人、十番隊の隊員達に随分見直されたみたいスね」

「・・・・・そうか。・・・市丸さんが・・・」

「どうしたんスか、檜佐木先輩?」

「いや、―――精進したいな、と思ってな。・・・いろんな事を」

「・・・はぁ」

 

俺は日番谷隊長を愛している。誰にも負けないと自負出来るほどに!

 

だが『想う』だけではダメなのだ。

 

だが『想う』ことが全ての力の源なのだ。

 

もし日番谷隊長の伝令神機が鳴っていれば、あの夢の様な一夜はなかっただろう。

例え間に合わないと分かっていても、日番谷隊長は俺の施した束縛など引き千切って馳せ参じ

てしまっただろうから。その事を深く心に刻んで忘れまいと誓う。

いつの日か、あの人が身体だけじゃなく、魂を預けても良いと思ってくれるそんな男になりた

い。いや、なってみせる。いつかきっと!

 

「・・・阿散井、久しぶりに手合わせしないか?」

「ええっ! 今からスか? 勘弁して下さいよ。せめて日が落ちてからにしましょうよ、檜佐木

先輩!」

 哀れな声を出す赤毛の後輩に「うるさい。早く木刀と取って来ないと土産は没収だ」と脅せば

、脱兎の如く走り出した。その背を見送りながら俺は微笑んで呟いた。

 

「―――いつかあんたにふさわしい男になりますよ。待ってて下さい。――――冬獅郎」

 

 

                                   了




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