花がたみ

――かざしの姫君――  一

恋は吾身(わがみ)の社(やしろ)にて

 

君は社の神なれば

 

  君の祭壇(つくえ)の上ならで

 

  なにに いのちを捧げまし

 

 

 

 

 

           島崎藤村 『若菜集』 より

 

 

 

 

 

「――――宮様、宜しいでしょうか?」

「あぁ。待っていたよ。遠慮なくお入り」

「はい。失礼致します」

 

 緊張した面持ちで入室して来た者に、部屋の主は親しげに微笑み掛けた。

「やぁ。久しぶりだね。元気そうでなによりだよ」

「宮様もお変わりなく」

「宮様などと他人行儀に呼ぶのは止めて欲しいな。要」

「・・・では、――――隊長・・・と?」

「うん。それで良いよ。さぁ、座りなさい」

 目の前の椅子を勧めれた東仙 要は、一度会釈の後、部屋の主と差し向かい座った。

「早速ですが、これがご依頼頂いた市丸ギンに関する資料です」

「あぁ。ありがとう」

 東仙から書類の束が入った封筒を受け取った部屋の主は、中身を取り出し、パラパ

ラと捲って目を通してから、東仙に労わりの言葉を掛けた。

「うん。これはよく調べてあるね。・・・同じ護廷隊の隊長とはいえ、これだけ調べ

るのは大変だっただろうに、とても助かるよ」

「いえ・・・」

 自分が心酔している人間から優しい言葉を掛けられれば、人は誰もが夢心地になる

。冷静沈着な人柄で知られる東仙とて例外ではなく、彼は自分の頬が上気するのを意

識した。

「う〜〜〜ん。それにしても、市丸ギンが護廷隊の隊長を勤めていたとは意外だった

な。灯台元暗しとはこのことだ。彼を探し出すのに随分骨を折ったというのに・・・」

「彼が護廷隊に入隊したのは、あなたが護廷隊を離れられてからですので無理はない

かと」

「うん。そうだね。しかも、同凄までしている恋人が同じ護廷隊の、しかも少年隊長

とは驚きだな。要はこの子とは親しいのかい?」

 書類を眺めながら問い掛ける部屋の主に、東仙は軽く首を振った。

「いえ、特に親しい訳ではありませんが、隊舎が隣接しておりますので、何かと声を

掛ける機会は多いかと思います」

「成る程」

「・・・あの・・・」

「ん?」

「隊長が何故、私に市丸のことを調べろとおっしゃったのかは存知ませんが、しかし

、日番谷冬獅郎の人柄に付いては私が保証致します」

「ほぉ・・・。君がそこまで云うとはね」

 いかにも感心したとばかりの部屋の主の声に東仙が頷く。

 実際、特別懇意にしている訳ではないにしろ、目上の者に礼儀正しく、そして昼夜

を問わず、真面目に任務を遂行する日番谷を、東仙は気に入っていた。唯一の気掛か

りは、その言動に多少の問題がある市丸と付き合っているという事だったが、今回の

市丸に関わる事で、日番谷がとばっちりを喰らう様な事だけは避けたかった。

「でも、その大事な恋人と、他の四人の愛人を一つの屋根の下で寝起きさせているな

んて、市丸は大胆なことをするものだね。まぁ世の男の夢ではあるんだろうが」

「はぁ。しかし、市丸の愛人達は日番谷にとっても愛人関係にあり、彼らは非常に仲

が良く、争いの類は無いと聞き及んでおります」

「それはまた珍しい事態だね。しかも四人の内訳が、隊長が一人に副隊長が三人とは

凄い」

「いえ、副隊長の内の一人、檜佐木修兵は既に卍解を会得しております。ただ今は隊

長位に空きがないが為に、副隊長に留まっているだけでして・・・」

「ほう。すると彼は事実上は隊長の実力を持っているという訳だ。う〜〜〜ん。・・

・もしかしたら市丸ギンの手元にはもう『四君子』が揃っているのかもしれないな」

(――――四君子?) 

いかにも愉快そうにしている部屋の主とは逆に、東仙の胸に不安が沸いた。

「本当にご苦労だったね、要。君の調査の御陰で、私のこれからの仕事がとても遣り

易くなったよ」

 書類を大切そうに封筒に仕舞う部屋の主に、東仙は「いえ」と首を振る。

「私で宜しければ、これからも何なりと御用をお言いつけ下さいませ」

 乗りかかった船と思い、水を向ければ、相手は尚、表情を明るくした。

「本当かい? 助かるよ」

「はい」

「ではお言葉に甘えて後一つ、君に調べて欲しい事があるんだが」

「なんでしょう?」

「実は・・・」

 真剣に、しかも声を潜めて語られた内容に、東仙は困惑し、咄嗟に応えられない程

だった。

「そ、そのようなことを知ってどうなさるのです?」

「今は云えないよ。でも大事な事なんだ。・・・これを調べる事は可能かい?」

「―――はい。実を申せば檜佐木は私の隊の副隊長なのです。彼の協力を得られれば

・・・」

「それは重畳だ。宜しく頼むよ。事態は急を要しているんだ」

「かしこまりました。では私は今日はこれで失礼致します」

 東仙が暇乞いを告げれば、部屋の主も自分が座っていた椅子から立ち上がった。

 驚いたことに、世の成人男性の平均身長を軽く超えている東仙をしても、相手はま

だ十センチも背が高かった。

「忙しいのに手間を掛けさせて本当に済まない。しかしこれも尸魂界の安泰の為と思

って許して欲しい」

「はい。隊長にはご懸念なく。又、なるべく早くご報告に参りますので、お待ち下さ

いませ」

「ありがとう」

「失礼致します」

 最後に深々と礼をして退出する東仙に、部屋の主は微笑んでそれを見送ったのだっ

た。

  

 緊張を強いられていた部屋から出た東仙は、ゆっくりと歩きながら感覚を研ぎ澄ま

せた。

 彼が歩を進めているのは、丁度この建物の中庭に当たる場所だが、今、瀞霊廷は秋

である筈なのにも関わらず、春の暖かな日差しが降り注ぎ、小鳥のさえずりが聞こえ

、思い思いに咲き誇っている花々が甘い香りを漂わせている。

(―――――常春の宮、青宮殿(せいぐうでん)か・・・)

 東仙は胸の内で一人ごち、その建物を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 秋も深まったその日、市丸ギンの屋敷の西に位置する秋菊殿(しゅきくでん)の庭

にはその名の通り、幾多の種類の数え切らない程の多くの菊の花が圏を競っていた。

 月明かりの下で浮かび上がる美しい菊を愛でながら眠りにつこうという趣向で、庭

近くの広い廊下に床を延べ、市丸は最愛の日番谷と二人、月見酒と洒落ていた。

 市丸は神殿造りの母屋で繋がっている四つの部屋に、日番谷と松本乱菊、檜佐木修

兵、阿散井恋次を住まわせており、自身は中央の神殿に吉良イズルと寝起きを共にし

ていた。

 この秋菊殿の本来の主は松本乱菊であったが、『私は花に興味はないですもん』と

云い、毎年、菊がもっとも美しく咲き誇るこの期間だけ、北の冬梅殿(とうばいでん

)に住む日番谷と部屋を交換していた。

 それが菊の香りを特に好む日番谷への配慮なのだとは、市丸の屋敷に住む全ての人

が知ってはいたが・・・。

「あぁ・・・。ホンマええ香りやね。冬(ふゆ)」

 月明かりと、そして庭に配された篝火に照らされた幻想的な大輪の白菊からは、な

んとも云えぬ高雅な香りが漂ってくるのに、うっとりとなった市丸が呟やけば、その

市丸の膝枕で、大きな翠の瞳を閉じている日番谷は小さく「そうだな」と応えた。

「・・・冬、眠いん?」

「・・・・・んっ。酒が効いてきたみたいだ」

「ザルのくせに何云うとるん。護廷隊の業務で疲れとるんよ。ホンマに冬は真面目過

ぎるわ」

 呆れた様に云われ、眼を閉じたままの日番谷の口元に苦笑が浮かぶ。

「ええお月さんやけど、望月には今少しやし、お酒はこのくらいにして眠るとしよか

。明日は久しぶりにお休みが重なったことやし、ボク、冬と一緒に町へお出かけした

いしなぁ」

「あぁ」

 半ば眠りに落ちかけている日番谷が生返事を返せば、市丸はその小さな身体を軽々

と抱き上げ、後に敷かれている夜具の上にそっと降ろし、優しく前髪を掻き揚げ、さ

も愛しいそうに頬に唇を寄せる。

「冬。キミは眠っとってもええから、ボクがキミに触れてもええやろか?」

 そっと囁かれたその声に、翠の瞳が一瞬だけ開かれ、微笑んだ。

 それを了解の印と取り、市丸は日番谷が身に纏っている夜着の腰紐を解き、袷をそ

っと開く。

 白い夜着の中から現れたのは、蝶貝のように輝く真珠色の肌だ。

 それに前にして、普段は緩く閉じられている市丸の瞼が僅かに開き、そこから真紅

の瞳が覗く。

「―――あぁ。綺麗やなぁ。ホンマ、冬は綺麗な子ぉや!」

 感動も露な声に、目を閉じたままの日番谷の頬に赤みが差す。

「・・・毎度、毎度、同じ事を云うんじゃねぇよ。バカ」

「せやかて、ホンマの事やもん」

 市丸は自分も纏っていた夜着を脱ぎ、ゆっくりと日番谷に覆いかぶさった。

「・・・市、丸・・・・・んっ」

 最初は啄ばむような口付けを耳たぶに施し、ややあってから甘噛みする。

 次に輪郭を辿るように降ろした唇で喉笛を軽く食み、舌を這わせる。

 そして細い鎖骨を舐め上げ、華奢な肩を大きな手で優しく撫で擦った。

「ん・・・あ、ぁ・・・・・市丸」

 決して急がずに、そして性感帯ばかりを攻める訳でもない市丸の唇と手の動きに、

だが日番谷はぞくぞくとした振るえと微弱な快感とを感じ、小さく喘いだ。

 その日番谷の花の様な可憐な唇が開かれるのを待っていたかの様に、市丸が口付け

、滑らかに舌を差し入れれば、おずおずと応え、互いの舌が絡まりあう。

「――――冬、愛しとうよ」

「・・・うん。俺も・・・」

 舌を解いた二人は閉じていた瞼を開け、至近距離で見詰め合った。

 

 翠と紅。――――反対色の色彩が交錯する。

 

 やがてその視線を外した市丸は、僅かな盛り上がりを見せている日番谷の、まだ幼

い乳房を繊細な手付きで撫で擦った。

「ぁ・・・やっ・・・・・くすぐったい」

「ふふっ。冬のおっぱい、可愛ええなぁ」

 さくら貝のような美しい色と光沢を持つ日番谷の乳首を、軽く摘んで指で愛撫する

市丸は、普段、護廷隊で見せている剣呑さの欠片すら覗えない。

「冬が女の子になってだいぶ経つけど、身体に異常はないんやろうねぇ」

 指で弄くっているのとは反対の乳首に唇を寄せながら尋ねる市丸に、日番谷は「大

丈夫だ」と応え、市丸の後頭部に腕を回す。

 

 現在、日番谷は技術開発局の阿近が開発した薬により、男から女へと性別が変わっ

ていた。

 それは最初、女体となった日番谷との逢瀬を望んだ、日番谷の愛人の一人、阿散井

恋次の希望に沿ってのものであったが、思いのほかの可愛らしさに、恋次だけではな

く、松本乱菊や檜佐木修兵、そして何より恋人である市丸に誉めそやされ、望まれる

まま、時たま女体となって過ごすようになって、二年が経っていた。

 

「んぁ!・・・乳を強く吸うのはやめろって前から云ってるだろ!」

 堪らない愛しさに負けて、市丸が少々手荒に扱えば、忽ち組み伏せられている日番

谷から抗議の声が上がる。

「かんにんや。・・・やって、可愛ええもん」

 自慢の銀の髪を掻き乱されても、常日頃から飄々としている市丸に反省の色は無い。

「でも冬かて、おっぱい吸われて感じるんやろ?気持ちエエんやろ?」

「バカ野郎。俺が何時、乳を吸われて悦んだってんだ」

 何時の間にか眠気が消し飛んだ日番谷が翠の瞳を煌かせて睨みつければ、市丸はニ

ンと笑う。

「ああ。気付かんでかんにんな。冬はおっぱいよりこっちを可愛がって欲しかったん

やねぇ」

 そう云って突然、長い指で秘所を探られ、日番谷が慌てる。

「わぁっ!ち、違う!」

 市丸の手の上から自分の手を重ねて動きを止めようとするが、日番谷の拙い抵抗な

ど無きが如しで、市丸の愛撫が止む気配は一向にない。

「・・・ぁ・・・・・ああっ・・・んっ!」

 女陰の敏感な部分への刺激に、力の抜けた日番谷が喘ぐと、我が意を得たりと市丸

がほくそえむ。

「冬。足を開き。もっと大きく」

「・・・・・ぅ」

「冬はええ子やろ。ボクの云うこと聞けるやろ?」

情欲に濡れた声で囁かれ、日番谷は一旦は悔しそうに眉間を寄せたが、すぐさまオ

ズオズと膝の力を抜き、かもしかのように腱の張った両足を開き、愛しい相手に秘所

を曝け出した。

「ホンマ、ええ子や。冬」

「あ!・・・・・んん・・・っ」

 市丸の長い五指が思う様、自分の秘められた場所を蹂躙するのを、日番谷は甘い声

を上げて耐えた。

「可愛ええ子。ボクの大事な冬」

 従順な日番谷に堪らない愛しさを感じ、市丸の指使いも熱を帯びる。

「――――あぁ。市丸!・・・そんなにされたら俺っ!」

「ふふっ。冬、もうここが濡れてグチュグチュやね。・・・もうイきやいん?」

 愛液が溢れ出した肉壷を刺激され、日番谷が快感に悶える。

「んっ。――――もう、イ・・・くっ」

「ボクの指だけでイってしまうん?」

 からかいを含んだ声に、一瞬、眉をよせたものの、元々快楽に弱い日番谷は呆気な

い程簡単に崩絡した。

「ア――――!」

 グンと幼い身体を弓成りにして達する日番谷に、市丸は満足げに目を細める。

 はぁ・・・はぁ・・・と息を整える幼い恋人が落ち着くのを待ち、一旦は閉じてし

まった膝裏を持ち上げた市丸は、もう一度ゆっくりと華奢な足を開き、その付け根に

顔を埋めた。

「――――やっ!・・・市丸っ」

「ややないやろ?・・・あぁ、かんにんや。いきなりでビックリしたんやろ?冬はボ

クの指と同じ位、ボクの舌が好きやもんなぁ。たっぷりと可愛がってあげるな」

「・・・ふ・・・ぅ。・・・・・俺、もう、眠いのに・・・」

 一応の抗議はしたものの、マイペースなことに掛けては誰も及ばない市丸には全く

効力は無く、熱い舌先で、女陰の中でも最も快感を感じる陰核を攻められた日番谷は

、市丸の見事な銀糸を指に絡めたままのたうった。

「う・・・ぁ・・・・・ああっ!」

 日番谷が再び達すると、顔を上げた市丸は肉食動物が食事を終えたかの様に、ペロ

リと舌で己の唇を舐めた。

「気持ち良かったやろ?」

「う〜〜〜〜っ」

 日番谷の不満そうな唸り声もなんのその、上機嫌な市丸は身体を起こすと、日番谷

の紅潮した顔を覗き込んで云った。

「なぁ、冬。今度は冬がボクのモン、その可愛いお口でしゃぶってくれへん?」

「・・・俺の口の中で出したら今夜はもう寝かせてくれるのか?」

 用心深く聞いた日番谷に市丸は口を尖らす。

「そんなんいやや。冬のお口でイって、それから冬と繋がって、冬の中に入って出さ

んと」

「・・・・・・・俺は眠いと云ってるんだがな」

 市丸に限らず、修兵や恋次が相手でも、閨では自分が身体を合わせる者の大抵の要

求を飲んでいる日番谷であったが、迫り来る睡魔に不機嫌を露にしはじめた。

 コトを始める前から、市丸は日番谷に寝ていて構わないと云いはしたが、実際の話

、眠れる訳はないのだから。

「・・・お前、さっさとこい」

 いい加減に相手をするのが面倒になったのか、早くケリを着けて眠ろうと、白い足

を最大限まで開き、尚且つ自分の秘所を指で広げて、そのピンク色の内壁を晒して誘

う日番谷に市丸の喉がゴクンと鳴る。

「冬は大胆やなぁ。そないに早くボクと繋がりたいん?」

 恋人の行動を自分の都合の良い様に解釈したらしい市丸に、内心溜息を吐きながら

日番谷が頷く。

「あぁ。お前が欲しいんだ」

 全くの棒読みのセリフだったが、頭の中がお花畑状態の市丸には効果覿面だった。

 すぐさま己のモノを手で数回扱き、硬くなったモノを柔らかな日番谷のナカに埋め

込もうとしたが、そこで愛しい相手から待ったを掛けられた。

「ちょっと待て、お前、このゴムを使え」

「はぁ?なにそれ?」

 日番谷が枕の下から取り出した物を見て、市丸の柳眉が寄る。

「現世の避妊具だ。これを使うと後始末が楽で良い」

「え〜〜〜っ!なんやのそれ!ボクはそんなん使うんはいやや。ボクは生で冬のナカ

に挿れて、全部冬のナカで吐き出すんやから!」

 断固として受け付ける気がないらしい市丸に、日番谷はそれ以上は強要せず、「や

れやれ」と小さく溜息を吐くと、ゴムを元通り枕の下に仕舞うと、大人しく市丸の首

に細い腕を廻した。

「仕方の無い奴だな。お前は」

「やってボクは本気で冬を愛しとるんやもん!」

 きっぱりと云い切って腰を進める市丸に、日番谷が頬を染める。

「・・・俺だって、お前が好き・・・だっ・・・んんっ!」

 ズッ―――と、内壁を圧迫しながら迫ってくる熱い塊に、日番谷が息を止める。

「あ・・・・・ぁ・・・市丸・・・っ」

 甘えを含んだ切ない声に、日番谷のナカに埋め込まれた市丸のモノはより硬さと質

量を増す。

「動くで、冬」

 自分の応えを待たず腰を揺らめかせ、身の内に飼う情熱を穿つ市丸に、日番谷も必

死に抱きつく。

「・・・ぁ、はぁ・・・は・・・・・っ」

「あぁ!―――ええっ!・・・最高や!冬」

 うっとりとした笑顔を浮かべながら、徐々に激しく腰を打つ付け、速度を速める市

丸に、日番谷は相手の腰に足を絡め、目を閉じたまま快楽を受け入れた。

「あ―――もう、イきそうや。冬、ボク、イってもええ?」

 情欲に濡れた紅い瞳に見下ろされ、日番谷も夢中で頷く。

「うん。うん。―――市丸!」

 甘えることが不得手な日番谷にギュっとしがみ付かれ、市丸は歓喜に溢れながら、

数度最奥を穿ち、やがて熱いものを注ぎ込んだ。

「・・・・・はぁ・・・気持ちええ・・・っ」

 しっとりと自分を抱きしめて、囁くようにそう告げる市丸に、日番谷の翠の眼が優

しく微笑む。

「俺も好かったぜ」

「ホンマに?」

「うん。・・・さぁ、今日はもうこれで大人しく眠るんだぞ、お前」

「・・・キミ、時たまボクのおたあさんみたいやね」

 日番谷の秘所に懐紙を当て、流れ出てくるものを拭いながら呆れたように市丸が呟

けば、身体を起こした日番谷は、ふふんと生意気そうに頤を上げる。

「当然だろ。俺は今、女の身なんだからな。俺はお前の母であり、姉であり、妹であ

り、友であり、妻なんだ。―――そういうものを全てひっくるめた者をこそ、『恋人

』と云うんだろ?」

「――――――!」 

自信たっぷりに見上げられ、開眼したまま市丸は言葉を失う。

(――――そうや。キミはボクの全てや!)

「・・・じゃあボクは冬のおもうさんで、お兄ちゃんで、弟で、そして親友で、夫な

んやね」

「ああ。そうなるな」

 二人して暫し見詰め合い、そして抱きあった。

 強い幸福感が深く二人の心を満たした。

 ややあって、市丸が日番谷の身体に夜着を着せ掛けると、今度は日番谷が市丸に夜

着を着せ掛けようとした。が、その手が一瞬、止まる。

「・・・市丸、お前、こんなところに痣があったか?」

「え?」

 市丸の右肩の後に紅い花のような文様が浮かんでいるのを見つけた日番谷が、不審

そうに聞いてきたのだ。

「あぁ。これなぁ。イズルにもこの間聞かれたんやけど、何時の間にかあったんよ」

「・・・痛みとかは無いんだな?」

「全然平気やよ。まぁ、大人になってから痣が出来ることなんてよくあることやし、

気にせんでええよ」

「―――そうか」

 抜ける様に白い市丸の肌にぽつんと浮かんだ痣は気にはなったが、日番谷はそれ以

上の追求はせず、一度口付けを交わした二人は仲良く床に付いたのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ。・・・こちらは終わりましたよ。隊長はどうです?」

「あぁ。私も今日はこの辺にしておくよ。遅くまでご苦労だったね。修兵」

 九番隊の執務室で、自分の机から顔を上げた自隊の副隊長に、東仙は労わりの言葉

を掛けた。

「いえ、じゃあ俺はこれで失礼します」

 席から立ち上がり、退出を告げる修兵を片手を上げて制し、東仙が近付いて来た。

「あぁ。済まない、修兵。少し話があるんだが・・・」

「はい。なんですか?」

 普段は来客用に使われているソファを指し示され、何か特別な任務でも告げられる

のかと思った修兵は、やや気を引き締めて腰を降ろした。

 東仙もそんな修兵の前に座り、じっと見えぬ眼で修兵を見詰めてきた。

「――――?あの、隊長、どうされたんです?」

 なかなか話を切り出さない東仙に修兵が疑問を告げると、ややあってから東仙が口

を開いた。

「修兵、お前は私を信じているかい?」

「藪から棒になんです。そんなの当たり前じゃないですか」

 眼を見開いて応える修兵に、東仙は「ふむ」と深く頷いた。

「お前にどうしても頼みたいことがあるのだ」

「隊長が俺にですか?・・・ええ。なんなりとおっしゃって下さい」

 常日頃から尊敬の念を抱く自隊の隊長に即答した修兵は、「実は・・・」と話し始

めた東仙の『頼みごと』を聞き、困惑を露にした。

「ええっ!そんなことを知ってどうするんです?」

「訳は云えない。だが、大事なことなのだ。頼む、修兵」

 東仙に頭を下げられた修兵は慌てた。

「判りました。判りましたから、俺に頭なんて下げないで下さい。まったく、もう!」

「済まない。なるべく早く報告が欲しいのだが」

「ええ。俺にとっては簡単な事です。明日にでもお知らせ出来ますよ」

 部下の返答にホッとしたらしい東仙に、だが、修兵はキツイ眼差しを投げかけた。

「俺は隊長を信じています。ですからお言葉には従いますが、俺がもたらした報告で

、市丸隊長に害意が及んだその時は、お覚悟をお願いします」

「――――修兵」

「ご存知とは思いますが、俺はあの人に『情』を持っていますからね」

 すっくと立ち上がり、「お先に失礼します」と言い置いて執務室を出て行く修兵の

気配が消えるのを待ち、東仙はやれやれと肩の力を抜いたのだった。

 

 

 

 

 

 早朝のまどろみの中で、乱菊は優しく語りかける市丸の思念を聞いた。

『――――貰うていくで、乱・・・』

『・・・ええ。もちろん良いわよ』

 眠りに付いたまま、我知らぬ微笑を浮べて乱菊が応える。

『私にいちいち断らなくて良いのに』

『この庭の主は乱菊や』

 その市丸の言葉を最後に思念による会話は途絶え、乱菊は何事もなかったかの様に

再び眠りに落ちた。

 

 

 

 自分の身の内から立ち上るかのような芳しい菊の香りに、日番谷は眠りの中からゆ

っくりと覚醒した。

「起きや。冬。少し早いけど一緒にお風呂に入ろうな」

「・・・あぁ」

 寝起きの良い日番谷が翠の瞳を開ければ、自分の上に屈みこんで微笑んでいる市丸

が映る。

 背中に両手を差し入れて、ゆっくりと自分の上体を起こす市丸に、日番谷もはにか

んだ笑みを見せた。と、こめかみに柔らかな感触を感じ、手を伸ばす。

「・・・お前は又こんなマネを・・・」

「ふふっ。よう似合うとるよ。冬」

 二年前から延ばし始め、今や背の半ばまでに達している日番谷の白銀の髪には、た

った今、市丸が庭から手折ってきた大輪の白菊が、朝露を乗せたまま両方の耳の上に

差し込まれていた。

 日番谷を目覚めさせた芳しい香りの正体は、この二輪の菊達だったのだ。

「ボクの大事な『かざしの姫君』」 

 さも愛しげな市丸の言葉に頬を染めた日番谷は小さく「バカ。恥ずかしい奴だな」

と呟き、降りてきた市丸の口付けに応えたのだった。

 

 

 

 市丸の屋敷の湯殿は十人が一度に入れる程のかなりの広さがある立派な物だった。

まだ朝早い時間だというのに、その湯殿にはすでに先客が居た。

「早起きやねぇ。檜佐木クン」

 檜の小さな腰掛に座り、石鹸で洗い終えた身体に湯を被って泡を流していた修兵は

、市丸の声に振り返った。

「あぁ。市丸隊長、日番谷隊長、おはようございます」

「おはようさん」

「おはよう」

 清々しい朝日が差し込んでいる湯殿で、一糸纏わぬ三人が朝の挨拶を交わすのは、

どこかしら奇妙な光景に見えたが、彼らの間ではごく当り前のことで、少女の身体と

なっている日番谷ですら、前さえ隠さず二人の男の間で平然としている。

「お前が朝風呂なんて珍しいな」

 市丸が手桶に汲んだ湯を被りながら話し掛ける日番谷に、髪から垂れる雫を拭きな

がら修兵が応える。

「いや、俺、昨日は遅かったもので風呂に入るのが面倒で、そのまま寝てしまったん

ですよね」

「そうだったのか。今、九番隊は忙しいのか?俺で良ければいつでも手を貸すぞ」

「ありがとうございます。でも、たまたま残業があっただけですから」

「そうか。丁度ここで会ったんだ。背中を流してやろう」

 そう云ってヘチマのスポンジを手に取る日番谷に、修兵は残念そうに手を振る。

「いえ、折角なんですけど、俺はもう上がるんで、変わりに市丸隊長の背中を流して

あげて下さい」

 断りを入れて湯に浸かる修兵に、日番谷もそれ以上は云わず、修兵に云われた通り

、市丸の背を洗い始める。

 思わぬサービスに上機嫌な市丸の背を、湯に浸かりながら、じっと修兵が見詰めて

いたことを二人は気付かなかった。

 市丸の身体を洗い終えた日番谷を、今度は市丸が洗い、二人は仲良く湯に入ってき

た。

「ところで檜佐木クン、冬に避妊具なんて渡したんはキミなん?」

 唐突に市丸に聞かれ、一瞬目をパチクリと瞬かせた修兵は次の瞬間には笑い出した。

「やだなぁ。違いますよ。俺じゃないです」

「・・・と、云うことは」

「阿散井の奴でしょ。・・・なんですか、昨日は日番谷隊長にゴムを着けさせられた

んですか?」

 クスクスと笑い続ける修兵に市丸が憮然とする。

「そんなん、断固拒否したに決まっとるやろ! 阿散井クンもよけいな知恵を付けて

くれたもんやわ」

 口を尖らす市丸に対して、すぐ近くでこの二人の会話を聞いていたにも関わらず、

日番谷は、我関せずと、修兵に違う話題を振ってくる。

「なぁ、檜佐木」

「なんです?」

「俺、昨日の散歩の途中でむかごを見つけて取ってきたんだが、去年お前が作ってく

れたむかご飯、また作ってくれるか?」

 意外に思う者もいるが、修兵は料理が得意だった為、この可愛らしい日番谷のお伺

いに破顔した。

「勿論良いですよ。今から炊き込めば朝食に間に合いますよ。むかごは厨房に置いて

あるんですよね?」

「ああ。作ってくれるのか?」

「ええ。じゃあ、俺は先に上がりますね。お二人はごゆっくり」

「ありがとう、檜佐木」

「おおきにな。檜佐木クン」

 さも嬉しそうにしている日番谷の横で、市丸も湯から上がった修兵に手を振る。

 精悍な身体をざっと手ぬぐいで拭き終えた修兵は、そんな二人に軽く礼をして湯殿

を後にしたのだった。

 

 

 

 自分の住まいする春蘭殿(しゅんらんでん)に戻った修兵は、すぐさま伝令神機を

手にした。

「・・・東仙隊長ですか?―――ええ。確かにありました。間違いありません」

 連絡事項のみの短い会話は直ぐに途絶えた。

 伝令神機の通信を切った後、修兵は何事かを考え込むように、暫らくその場を動か

なかった。

 

 

 

「あら、むかごご飯じゃない。これ美味しいのよね」

 朝食の席で喜色を浮べる乱菊に、日番谷も満足そうに頷く。

「今、現世任務に付いてる阿散井もこれが好きなんだよな。あいつにも食わせてやり

たいな」

「大丈夫ですよ。むかごはまだありますから、あいつが戻ったらもう一度炊きますよ」

「うん。そうしてやってくれ」

 修兵の言葉に安心したように箸を動かす日番谷に場が和む。

 氷雪系最強の斬魄刀を持つ日番谷は、その幼い外見を裏切る高い戦闘能力と、類稀

な頭脳とを併せ持ち、下位の死神などから見れば近寄りがたく、冷淡に見られがちだ

が、その実は情が深く、一度心を許せばどこまでもその相手の為に尽くそうとする。

 そんな日番谷の気性をこの場に集まった四人、市丸、修兵、乱菊、吉良は良く判っ

ていた。

 

 

 

「お腹がいっぱいになったところで出掛けよか、冬」

「あら、今日はデートですか?」

「ああ。松本、俺が休みだからってサボるんじゃねぇぞ。檜佐木、たまに十番隊を覗

きに行ってくれ」

「ははっ・・・判りました」

「え〜〜〜〜っ、酷い! 私だって隊長が休みの時はちゃんと仕事をしますよ」

 乱菊の抗議に「どうだかな・・・」と日番谷が視線を宙に向けると、その場の全員

が一斉にどっと笑った。

 

 

 

「さぁて今日はどれを着ようか?」

 日番谷の為に誂えた衣装部屋に入り、小首を傾げた市丸が思案する。

「冬はお出かけするのに着て行きたい着物とかあるん?」

「いや、いつも通りお前に任せる」

「さよか。う〜〜〜ん。どないしょうかなぁ・・・」

 悩みながらも嬉しそうな市丸の周りには日番谷だけでなく、出勤時間にまだ間があ

る三人も一緒に付いて来ていた。

 それは単に時間が余っているからではなく、市丸が日番谷にどんな物を見立てるの

か興味があったからだ。

 日番谷の長い髪は予め頭の高い位置で技巧を凝らしたやり方で綺麗に結い上げられ

、そこから一房のみが背に垂らされているという粋な結い方をされており、長持ちす

るようにと、特殊な鬼道を施した今朝の二輪の菊がかざされている。

「ほんなら、今日は綿紅梅あたりでいこか?」

 市丸が箪笥から取り出した、浅黄色の細かい格子がある着物を見て日番谷が顔を顰

めた。

 それを目ざとく気付いた市丸が苦笑する。

「これは気に入らんの?」

「いや、柄や色がどうこうじゃなくて・・・」

 もごもごと口ごもる日番谷の真意を察して、市丸がやれやれという顔をする。

 日番谷は暑さが苦手て、梅雨の時期に入るや否や、絽(ろ)の着物に手を伸ばす。

 そして七月や八月の盛夏ともなると、薄物の中でも特に透け感の強い紗(しゃ)意

外、袖を通そうとはしないのだ。

「冬。いくらなんでももう九月も終わりや。絽や紗みたいな風通しのええ薄物はあか

んのやで」

「判っているけど・・・」

 不満げに下を向く日番谷を見かね、着物に付いては一家言ある乱菊が横から口を出

した。

「でもギン、絽でも色のこっくりしたものならまだ良いんじゃない?それか麻の小千

谷縮(おぢやちぢみ)なんかならどう?」

「――――乱は冬に甘いな。ボクは季節の先取りをしても、後戻りは絶対に嫌や」

 ぴしゃりと云われ、乱菊は肩を竦めた。確かに九月の上旬位ならばそれでも良かっ

たのだが、市丸の着物への拘りは半端ないのだと改めて思ったのだった。

「・・・仕方ないなぁ。そんならボクの取っておきを出すとしよか」

 白けてしまった空気を読んでか、市丸が明るく告げ、箪笥の一番上段から畳紙(た

とうし)に包まれた着物を取り出し、皆の前で広げた。

 それを見た一同の間に軽いどよめきが上がる。

「・・・市丸隊長、それってもしかして『紗袷(しゃあわせ)』ですか?」

 驚く皆を代表して、吉良が問い掛けるのに、市丸はニンと笑った。

 絽や紗の上に更に紗を重ねて袷仕立てにした紗袷は、薄い紗を通して下の生地の色

柄が透けて見える上品かつ、色っぽい洒落着であり、元は一部の通や玄人衆が好んで

着たとされていた。

「いえ!違うわ。これはただの紗袷じゃないわ。―――ねぇ、ギン、これひょっとし

て『無双』なんじゃない?」

「流石は乱菊。大当たりや!」

 緊張した一同の中で市丸がにっこりと微笑む。

 一般的に紗袷は絽に紗を重ねるが、今、目の前にある品は紗に紗を重ねた『無双』

と呼ばれる物で、仕立てが非常に難しく、当然のことながら、普通の紗袷より格段に

贅沢な品だった。

 白地に鈍色(にびいろ)で美しい菊が描かれた着物はその下の淡い桜色が透て見え

るという、非常に品があり、又、愛らしい一品だったのだ。

「冬、これならどうや?」

「あぁ。凄く良いな」

 一目でその着物が気に入ったらしい日番谷に、実は帯もとっておきの物があるのだ

と、市丸も浮き立つ。

 日番谷に着物を着せ、千歳緑に蛍ぼかしの半幅帯を当て、それを少女らしく片流し

に締めると、大満足の態だった。

「おおう!」

「良いですね!」

「隊長、凄く似合ってますよ!」

 修兵、吉良、乱菊からも賛辞が飛び、日番谷は照れて頬を紅くした。

「ギンたら、こんないい物を隠しておくなんて。・・・紗袷は五月の末から六月初旬

か、今みたいな九月中旬からのほんの短い間しか着られないのよ。もっと早い時期か

ら隊長に着せて上げれば良かったのに」

 日番谷の姿に喜びながらも、唯一の不満を述べる乱菊に、市丸はぽりぽりと首の後

ろを掻いた。

「いや〜〜〜っ、ボクもそうは思っとったんやけど・・・」

「けど、なんなのよ?」

「いやな、ど〜〜〜しても、この帯に似合う帯締めが見つからんかったんよ」

 その言葉に一同が唖然となる。

「・・・あんたねぇ。隊長はいつも半幅帯を締めているじゃない。半幅帯なら帯締め

が無くたって別に変じゃないわよ」

「それも判っとんのやけどな。仕方ないから今回は帯締めは諦めて、帯飾りでアクセ

ントをつけることにするわ」

 そう云って、銀杏を模した黄水晶が三つ、細かな銀細工の鎖から揺れている趣味の

良い帯飾りを日番谷の千歳緑の帯の左側に差し込んだ。

「――――あんたどこまで完璧主義なのよ」

 呆れる乱菊に構わず、今度は箪笥の引き出しから扇子を一つ取り出した市丸は、そ

れを日番谷に手渡す。

「冬、これを使い」

「あぁ」

 日番谷が、早速風を送ろうと広げた扇子はなんと真紅の物だった。

 白を基調とした着物の中央で、日番谷のイメージカラーである緑の帯が引き立ち、

さらにそれを反対色の扇子の紅が引き立てている。日番谷が風を送ろうと、動かす度

に、まるで大きな紅い花が揺れているかのように目を引く美しさに、三人は一瞬声を

失った。

(わぁ―――お!)

 内心で口笛を吹く修兵。

(お見事です!)

 ひたすら感嘆し、市丸の対する尊敬の念を深める吉良。

 そんな中、一つ大きく息を吐き出した乱菊は、市丸に向かい合って告げた。

「前々から思ってたことだけど、流石にここまでされたら素直に認めるしかないわよ

ねぇ」

「なんやの乱?改まって・・・」

「――――ギン、あんたって、正真正銘、当代隋一の『衣装伊達(いしょうだて)』

だわ!」

 目の前にビシッと付き立てられた白い指に、暫しの間を置いて、市丸は「おおきに

」とはんなりと笑ったのだった。





                            続く


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