天気の良い秋の夕暮れ時、その日の業務をつつがなく終えた日番谷と雛森は談笑しながら

大勢の人が行き交う大通りを歩いていた。

「冬獅郎さま、ここが私のお勧めの呉服屋さんですよ」

雛森が一件の店の前で足を止め、隣を歩いていた日番谷を促す。

「少しお値段の張る物ばかり置いてありますが、それだけに品物は確かです」

「うん。俺は藍染隊長から特別に支度金を頂いたから、金のことは大丈夫だ」

日番谷の云う仕度金というのは、霊術院の卒業を前に護廷隊に入ることが確定した生徒だ

けに、特別に各隊が個別に支払う金のことで、藍染は朽木白哉が支払う予定にしていたの

と同額の金を、遠慮して辞退する日番谷に無理やり受け取らせていた。

それは平の隊士であれば、ゆうに三年分の給金に匹敵する金額だった。

明るい日番谷の返答に、雛森も笑顔で頷き、二人は店の暖簾を潜った。



店の中は洋々な年齢層の女性客で賑わっており、その様子を目にした日番谷はこっそりと

胸を撫で下ろした。

(わぁ・・・。雛森に付いて来てもらって本当に良かった。俺独りだったらとても買い物なんか

出来ねぇところだった)

「冬獅郎さま。冬獅郎さまは市丸さまにどんな物を送られたいのですか?」

「そうだなぁ・・・。気に入ってくれれば何でも良いけど、出来たら長い間手元に置いて大事

にしてくれる物が良いな」

「そうですね。それでしたら帯はいかがでしょうか」

「帯? 着物でなく・・・か?」

きょとんとした日番谷に雛森はにっこりと微笑む。

「はい。このお店には市丸さまに似合いそうな綺麗な反物が沢山ありますが、それを選ん

でも着物として縫い上げるのに時間が掛かります。・・・勿論、反物のまま送るという手もあ

るのですが、市丸さまもお忙しい身ですし、凝った髪飾りや簪や可愛い小物も良いとは思い

ますが、市丸さまはご自分の身を飾るのにあまり熱心ではないようです。何より普段使える

物の方が便利で喜ばれるでしょう」

「うん。そうだな。雛森の云う通りだ」

自分の言葉に素直に納得する日番谷に対し、雛森も気分良く説明を続ける。

「それに和装は『着物一枚に帯三本』と昔から云うのです。つまり同じ着物でも帯が違えば

受ける印象が驚く程変わって重宝だと」

「よし! 決めた! 帯を買おう! 雛森、市丸副隊長に似合う帯を選んでくれ」

「はい。お任せ下さい」

雛森は黒目勝ちな瞳を煌かせて、張り切って応えた。



二人はあれこれと色々な帯を見比べ、店の者のアドバイスにも耳を傾けたりした結果、コレ

だ! と、いう物を選び出した。

それはごく薄い灰色と浅黄色の市松模様の半幅帯だった。

非常に珍しい色会わせではあるが、市丸の持つ一種独特の雰囲気に似合い、かつ、市丸

の手持ちの着物にも合いそうだと雛森が請合った為、日番谷は決定を下したのだ。



日番谷が贈り物として帯を包んでもらっている間、雛森は店の中を歩いていて、美しい半襟

を目にし、思わずそれを手に取って眺めた。

それは金糸で梅の刺繍が施された見事な一品だった。

(―――なんて綺麗。・・・でも金刺しなんてきっと凄く高いわね・・・)

溜息を吐いて、それを元の場所に戻そうとした雛森に、日番谷が後から声を掛けた。

「雛森はそれに決めたのか?」

「・・・・・えっ?」

「あれ? 云ってなかったか? 俺、お前にも何か贈るつもりだったんだ。だから好きな物を

選んでいいぞ」

「・・・私にもですか?」

「当り前だろ。俺はお前のことだって大事なんだから」

さも当然のようにそう云った日番谷は、半襟をそっと受け取り、雛森の襟元で広げて満足そ

うに頷いた。

「これ、綺麗だな。梅の花がまるで誂えたみたいにお前によく似合う。これにしろよ、雛森」

歳若い少年から大人びた口調で褒められ、雛森はポッと頬を染めた。

自分を想ってくれる日番谷の心根が堪らなく愛しい。

「で、でも冬獅郎さま。これは金刺しといって金糸だけで刺繍を施した一点物で、とても高価

な品なんですよ」

日番谷の気持ちは嬉しいのだが、もしかすれば、市丸の為に買い求めた帯に匹敵する値段

なのではと、雛森は気遣った。だが、日番谷は「金のことは心配するな」と笑って、その半襟

の支払いも済ませてしまった。





「今日は助かった。自分だけじゃ、とてもあんな店に入れないからな」

「私の方こそ、ありがとうございました。頂いたこの半襟、さっそくお気に入りの着物に使わせ

てもらいますね」

「あぁ。今度着けたのを見せてくれ」

「はい。是非!」

五番隊舎への帰り道、ぽつぽつと灯りが燈り始めた通りを、二人は仲良く並んで歩く。

「贈り物も無事買えて安心したら腹が減った。ここら辺りは食い物屋も多いし、何か食べてか

ら隊舎に帰ろうぜ」

「そうしましょう。冬獅郎さまは何を召し上がりたいですか?」

「ハンバーガー!」

全開の笑顔で応えられ、雛森は困った。

「・・・・・・・そ、それはちょっと・・・」

「じゃ、ピザ!」

「・・・そ、それもちょっと・・・」

「それなら、スパゲティー」

「・・・・・・・」

冬獅郎が食べたいと望む物はどれもこれも現世の子供達の好物だと解る。しかし、瀞霊廷に

ない食べ物ばかりで雛森は心底困った。

「あのぅ・・・冬獅郎さま。天ぷらとかお寿司とかじゃダメですか?」

「和食はもう飽きた」

自分の提案をあっさり却下されて、雛森は悩んだ。

―――が・・・。

「なぁんてな!」

「えっ?」

見下ろした日番谷の瞳が悪戯が成功した子供のそれなのを見て、雛森は自分がからかわ

れていたのに漸く気付いたのだ。

「冬獅郎さま! 私をからかったのですね」

頬を膨らませる雛森に、日番谷は軽やかに笑った。

「悪い。雛森。お詫びにお前の好きな物を食べに行こう。それで許してくれ」

「・・・・・分りました。では瀞霊廷で一番高い料亭の特選料理を食べさせて頂きます。よろしい

ですね?」

「よろしいとも」

二人は顔を見合わせて笑い。手を繋いで再び歩き出したのだった。




                                               続く


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五番隊編  十三