第十話
雛森の初々しい身体を再び下に組み敷いた市丸は、華奢な白い足を開かせると、その最奥の
小さな窪みに目を愉しませた。
「あぁ。可愛えなぁ。・・・・・あの子のここも凄く可愛かったわ。雛森ちゃん、今日はコッチを使て
もええやろ?」
「はい。どうぞお好きなように」
雛森はそう応えながらも枕元の時計に一瞬視線をやった。
「どうしたん?」
「いえ、そろそろ関君が藍染隊長の元へやって来る刻限なので少し気になって」
「ふぅん。首尾よういくとええねぇ」
「はい。関君はとても努力家なのです。――藍染隊長のお心を上手く攫めるといいのですが」
気遣わしげなその様子に市丸は内心苦笑したのだった。
庭先から自分を呼び掛ける声に、読んでいた本を閉じた藍染は文机の前からゆっくりと立ち上
がり、障子戸をカラリと開けた。
その視線の先には緊張した面持ちの一人の青年が立っていた。
「七番隊、第二十一席の関直登と申します。本日此方に覗うよう雛森七席からお誘いを受け、
参上致しました」
畏まってそういう声が少し震えているようで、藍染はことさら優しく口を開いた。
「待っていたよ。さぁ、中へ入りなさい」
自分に応えて入室して来た青年を真近の明かりの中でじっくりと見た藍染は、それと判らぬ程
に口角を上げた。
己の好みからすれば少々線が細いが、充分に気を惹かれる容姿を青年は持ち合わせていた
のだ。
実力主義の護廷隊において、席官の移動は日常茶飯事であっても、自分の前の席が空いた
からといって単純に一歩前に進める訳ではない。
多くの場合はその前後の者と実力を評価され、見直しによっては席位が下がることすらあるの
だ。
又、その逆に他隊に移籍することによって地位を引き上げてもらえることも多い。
時折、雛森は自分がこれはと思った者を藍染に引き合わせることがままあった。
ハタからみれば寵愛を競う相手を増やしてしまう危険を伴った行為だったが、雛森自身はそう
いった危険を一切顧みなかった。
己が慕う藍染の為、そして移籍する立場の者のことだけを考えて行動するからである。
故に護廷隊の中には金品を贈って雛森に仲介を頼む者が後を絶たなかったが、雛森は賄賂
に応じたことは一度たりとてなかったのだ。
これが、五番隊には三席が二人いると影で云われる所以である。即ち、『表の吉良』と『裏の
雛森』。後にこれに『中(なか)の日番谷』が加わることになるのだが、市丸が先に苦笑を漏ら
したのは、只ひたすらに藍染惣右介を思う雛森の一途さにであった。
「そんなに緊張しなくていいんだよ。それとも私は君に怖がられているのかな?」
温和な藍染の笑みに青年は真っ赤になって慌てて首を横に振った。
「そんな! とんでもありません。―――以前からずっとお慕い申し上げています!」
「そう。それは良かった」
おそらく自分に身を任せるのに相当の覚悟をしてやって来たに違いない青年を藍染はそっと
抱き寄せ、その耳元に囁いた。
「大丈夫だよ。優しくすると約束しよう」
「は、はい」
人には誰しも多かれ少なかれ野心というものがある。
実力社会に属しているこの青年も自分の世界でより認められたいという思いがあった。だから
こそ今夜藍染の部屋を訪れたのだ。昇進というチャンスをものにする為に!
それぞれの隊によって異なるが、大まかにいえば席官として番号が付くのは上位五十名まで
であり、その内二十席までが上位席官とされる。
もし他隊に移動になった五番隊の十八席の代わりに彼がその地位に着くとすれば、三歩前に
進めるだけではない付加価値があるのだ。
青年の背に腕を廻して隣の寝室へ誘いながら、藍染は何時になく心楽しくなっている自分を
発見し、たまにはこんな夜も良いと改めて雛森を愛しく思ったのだった。
「あ――・・・っあぁ――・・・・・ああっ!」
これ以上は無理という程に足を大きく広げられ、雛森は後孔深く市丸を受け入れていた。
「雛森ちゃん、ホンマ可愛え」
激しく抜き差ししながらうっとりと市丸が呟く。
「気持ちよくてどうにかなりそうや」
「はっ・・・あぁ・・・・・あっ、わ、私も・・・・です・・・」
市丸の指先で敏感な陰核を弄くられ、耐え切れずに弓なりになって雛森が気をやれば、市丸
もより一層腰の動きを早め、やがて幾度か深々と抉るようにして達して果てた。
「身体、辛うなかった?」
「はい。ご心配には及びません」
汗の張り付いた笑顔で返事をする雛森の額に唇を落とし、市丸は素早く二人分の後始末に掛
かった。
「あっ、私が・・・」
慌てて起き上がろうとする雛森を制し、素早く後始末を終えた市丸は、汗の引いた雛森の身
体に夜着を着せかけ、自分も着物を着ると、煙管に手を伸ばした。
藍染は煙草を吸わないが、市丸は時折思い出したように吸うので、雛森は自室に市丸の為の
煙管を一式用意していた。
「一服だけ吸ってもええ?」
「はい。あのでも市丸副隊長・・・」
雛森は煙管を手にしている市丸はキライではない。むしろ見惚れてしまうくらい格好良いとさえ
思っていたが・・・。
「うん? なんなん?」
「お腹に赤ちゃんが出来たら煙草は絶対に厳禁ですからね!」
断固とした雛森の言葉に市丸は盛大に噎せ込んだのだった。
驚く程に広い寝室に布かれた寝具に身を横たえ、朽木白哉は浅いまどろみの夢の中で護廷
隊の敷地内を歩いていた。
「朽木隊長、お待ち下さい!」
突然背後から呼びかけられ振り向けば、六番隊の隊舎の方から自隊の腕章を左の腕に着け
た白銀の髪をした少年が走り寄ってきた。
「隊長、お待ち下さい。私をおいていかないで下さい!」
幼いが、凛とした気品があるその姿に白哉の頬が自然に緩んだ。
「私がお前を置いて何処へ行くというのだ?」
少年が自分に追いつくのを待ってからかうようにそう云う白哉に、少年が嬉しそうに頬を染め
る。
その様子に気分を良くした白哉は、己がどれほどこの目の前の少年を気に入っているかという
ことを改めて自覚していた。
いや、単に気に入っているなどという言葉ではすまない想いを少年に抱いていたのだ。
この少年は自慢の副官であるばかりでなく、家族にも等しい愛情を感じてさえいた。
と、突然に場面が変わり、二人は朽木邸の中庭に立っていた。
夢は幾度も同じ場面を再現するばかりではなく、唐突に新しい局面を見せたりもするのだ。
そして今度の夢は冷静沈着で知られる朽木白哉をも驚かせる内容だった。
なにしろくだんの少年がその小さな身体に純白の隊長羽織を纏っていたからである。
「たった今、仕上がったばかりの隊長羽織が届けられたので見せに参りました。・・・どうでしょ
うか?」
少年の問いかけに、驚愕している実体とは相反し、夢の中の白哉は至極満足そうに頷いた。
「うむ。よく似合っているぞ、――」
「本当ですか? 嬉しいです!」
碧の瞳を煌かせた少年はさも嬉しそうに続ける。
「実はおじいさま・・・じゃなかった総隊長から、隊長羽織が出来上がってきたら一番最初に見
せに来るように云われていたのです。でもやはり私は朽木隊長に一番にお見せしたくて・・・」
そう云ってはにかむように笑う少年に改めて愛しさを感じる反面、血縁者でもないくせに一歩
護廷隊を出れば自分のことを『おじいさま』などと呼ばせている総隊長に対して苛立ちを覚え
る。
そんな白哉に少年は気遣わしげに尋ねてきた。
「・・・あの、隊長、お伺いしたいことがあるのですが・・・」
「どうした? 何か心配事でもありそうな顔だな」
「はい。あの、今まで私は此方のお屋敷でお世話になっていましたが、他隊の隊長となってし
まったらもうこのお屋敷から出ていかなければいけないのでしょうか?」
不安そうにそう聞かれた白哉は一瞬の後、軽い笑い声を起てていた。
「なんだ、お前はそんなことを気にしていたのか――」
「でも、あの・・・」
「お前はこの屋敷から出る必要などない。――、お前は何時までも私と共に此処で暮らせば
良いのだ」
白哉の言葉に少年が破顔する。
「本当ですか! あぁ。良かった!」
安心の為か、ほぅと息を吐いた少年はにこやかに白哉に語りかけた。
「隊長という地位を得た今だから申し上げますが、実は私の父は私が護廷隊に入隊するのに
反対していたのです。でも私がどうしても六番隊に入りたいと云ったら渋々ですが許してくれま
した。きっと父は他のどの隊長よりも貴方のことを高く評価していたからだと思います」
少年のその言葉に夢の中の白哉は微苦笑を漏らしたが、現実の白哉ははっとして夢から覚め
がばりと臥所の上に身を起こした。
――――流魂街出身である日番谷冬獅郎に父などいない!
その事実に気付いた為だった。
そういえば夢の中で自分は何度も少年の名を呼んでいるというのに、一度として音として聞こ
えたことはなかった。
あまりにも瓜二つな為、日番谷冬獅郎だとばかり思い込んでいたあの少年はでは別人なので
あろうか?
まさか、あれ程似ている他人などいるものなのか?
先日面談したおりも違和感を感じてはいたが、それは初対面の緊張のせいで、手元に置いて
打ち解けてくれればあの煌く笑顔を自分に向けてくれるものだとばかり思い、副官にすること
を一瞬も躊躇わなかったというのに。
白い夜着のまま、寝所の布団から起き上がった白哉の脳裏に様々な思いが去来した。
やがて暫らくの後、白哉はぽつりとした呟きを漏らした。
「・・・お前は日番谷冬獅郎ではないのか? お前は一体何時、私の前に現れてくれるのだ」
この後、三年を待たずに護廷隊が、いや瀞霊廷全土が震撼する力を持った赤子が誕生する。
そして更にその百年後、恐ろしい力を持つ白銀の髪をした少年が己を慕い、その後を着いて
廻るなどとはいかに朽木白哉とて預かり知れぬことだった。
白い光が障子に映る頃、眠りから覚めた藍染は隣で熟睡している青年を緩く揺さぶって起こし
た。
「関君、起きなさい」
「・・・・・・・ぅ・・・あ・・・・・っ?」
「まだ眠いだろうが我慢して起きなさい。君は七番隊舎に戻らなければいけないからね」
藍染の言葉に青年は慌てて起き上がり身支度を整え始めた。
それが済むのを待って藍染は人当たりの良い笑顔を向けた。
「今日にでも七番隊に出向いて狛村隊長に君を譲って貰えるよう頼むつもりだよ」
それを聞いた青年の顔に喜色が浮かぶ。
「だが君の五番隊の席次は現在の我が隊の十九席と試合をしてもらってから決定する。それ
でいいかな?」
「はい、勿論です。ありがとうございます! どうかよろしくお願い致します!」
「隊長としてえこひいきは出来ないが・・・頑張るんだよ」
チャンスを与えられたこと事態幸運であり、藍染の励ましに青年は嬉しくて堪らないといった風
情で何度も何度も深く礼をしながら藍染の部屋を退出して行った。
その背中を朝もやの中に見送り、藍染はふと思いついたように一人ごちた。
「―――『百草の花の弟となりぬれば八重八重にのみ見ゆる白菊』か。・・・さて、今頃朽木白
哉はどんな未来透視を見ているのかな」
余人には決して見せないであろう老獪な表情は至極楽しげであった。
出会い編 終わり
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