水稲品種「富富富」の普及拡大に向けて

         〜新品種誕生に込められた思い〜         

                                          作 井 英 人

  この随想は、私は富山県に在職中、水稲品種「富富富」の開発や誕生に関わりましたが、その

誕生の経過や今後の普及拡大に込められた関係者の思いについて述べたものです。

 本稿を作成するにあたり、ご協力を
いただいた関係者の皆様に心から感謝を申し上げます。

<本文>

 水稲品種「富富富」は、富山県が、主要ブランド米「コシヒカリ」の課題である

@夏の高温で米が白く濁りやすいA草丈が長く風水害で倒伏しやすいBいもち病に

弱い、という3点を改良するため、平成15年から高温でも高品質な米となる遺伝子の

探索を始め13年間をかけて育成した品種です。その名称は一般公募し全国9,411件の

応募から、富山の水・大地・人の3つの富が育て、消費者が「ふふふ」と笑顔で幸せに

なり、漢字圏への輸出の願いも込め「富富富」と命名され、平成30年に本格デビュー

しました。

  私は、当時、県職員として本品種の誕生に関わってきました。今世紀初頭から、夏の

高温による「コシヒカリ」の品質低下が問題となるなか、県では、気象変動に強い早生

「てんたかく」の育成や「コシヒカリ」の遅植による出穂期の高温回避等の技術対策を進め

てきましたが、「コシヒカリ」の課題を克服する品種の育成が急務でした。
 

 その開発には、県農業研究所育種課の蛯谷武志氏(平成29年逝去)が中心となり、

関係者が情熱を注いで新品種の育成を進めました。 その手法は、遺伝子組換えではない

DNAマーカー育種」という新技術により、「コシヒカリ」の良食味の特性を有しつつ、

その課題を克服する品種を育成しました。本県の水稲育種にご指導いただいてきた東京

大学大学院農学生命科学研究科教授 井澤 毅氏は、「「富富富」は、まぎれもなく、

本格的なゲノム育種技術を駆使した実用品種」と評価されました。本品種は、いもち病に

強いので減農薬で栽培でき、甘みもあり冷めても美味しいことから、生産・消費の両者に

メリットがあります。

 令和5年の夏は異常高温となり、本県でも「コシヒカリ」の1等比率の低下が問題となっていま

したが、「富富富」は、関係者が「「コシヒカリ」を越える品種を」との熱い思いで開発しました。

皆様にはどうかその思いをご理解いただき、そして「富富富」が持つ力を発揮し、将来、

本県を代表するブランド米に育っていくことを願っています。

(注1 DNAマーカー育種:「コシヒカリ」に目的の形質遺伝子を持った稲を何度も戻し交配をしながらDNA診断

により効率的に品種を育成する手法、注2 ゲノム:DNAによる遺伝情報)

 
 Copyright (c) 2004 Toyama Regional Activate Institute. All rights reserved.