悶々
その告白することの苦痛を、毎日悶々とすることの苦痛が上回
ある日、クラスの有志の参加を募
さて、そのコンパの当日がやってきて、どこかの居酒屋で宴会が始まったのではないかと思う。
あちこちで、話が盛り上がったり、
静かになったりしていた。どうやってそこまで漕
今こそ、一大決心を実行する時だと思うと、急に、ソワソワと胸騒ぎのような感じがしてくる。
普通、アルコールが入れば口も滑らかになってくるものであるが、逆に、
三四郎の口は凍
これまでも、何度か涼子に二人だけで会ってほしいと言おうと思ったことはあった。その都度、
なんでこんな話題で話している時に、突然、そんな関係のない話をするんだ!
という気持ちに襲われてしまう。そして、そんな非常識なことを言うのはやめてしまえ! と
命令する自分が強くなり、じゃぁ、やめよう… ということになり、
ホッと安堵感
思えば、中学や高校でもこんな煮え切らない感じのことがしばしばあったように思うが、
今ほどの問題意識はなかったようである。
振り返れば、その時はあまり気に留めなかったが、三四郎が、
言うべき時にタイムリーに言うべきことを言わなかったために、
相手の失望したような表情を感じたことがあったようにも思えてくる。
いずれにしても、この期
「あの…、今度の日曜日、会えないかな…」
そう声を絞
(これじゃダメだ…)
と思っていると、ハッと驚いたように三四郎を見つめながらも、
「えっ、えぇ…」
と、即座に首を縦に振りながら涼子から返ってくる言葉に、
(信じられない、地獄に仏とはこのことか…)と思いながらも、
今度はホッとしたのか、言葉も少し平静を取り戻して滑らかとなる。
「じゃぁ、紀伊国屋書店で10時に…」
日曜日の当日、10時に30分ほど前から三四郎は、時折、
目の前にある本を落ち着きなくパラパラとめくったりするが、
また、書店の入り口の方を眺
次第に予定の時間が近づく中で、
(ああ言ったのは、きっと夢幻
と、そんな往生際
が、ハッとなって腕時計を見てみると、予定の10時を2〜3分過ぎていた。
慌
夢ではなく現実に、自分との約束で来てくれた涼子を見て、三四郎の心臓は急に速く動き出したように感じた。と同時に、一瞬、
すっぽかされたほうが気楽だったのに…というようなとんでもない気持ちまで
脳裏
そして、ほぼ、涼子の隣の方まで近づいたときに、
涼子の方も雰囲気
三四郎の脈拍はますます速くなったようであり、そのうえ、
喉
「あぁ、大分
「うぅん、今来たところ」
「植物園でも…行くぅ?」
三四郎は心の中で、「行こうか!」とか「行かないかい?」とか呟
しかし、ちゃんと涼子には通じていたらしく、
「えぇ…」
という了解の言葉が返ってきた。
二人で、歩いて10分ほどの植物園へ、普段は早足の三四郎は涼子になるべく歩調を合わせようと、
ぎこちなく並びながら何も話もせずに行った。
小さな植物園なので他には誰も入園者はいないように思われた。
一息ついて、ようやく涼子の姿全体を眺めてみる余裕もできたが、どこがと言われればよく分からないのだが、
大学のキャンパス内で見るよりも洗練されて大人っぽく感じた。なぜか、皮のハンドバッグが印象的だった。
しかし、そんなこととは別に、先ほどから全然会話のないことに焦
「おもしろかった小説なんかは…あるぅ?」
「サガン
「えっ、嵯峨野
「…?、あぁ、『悲しみよこんにちは』とかの作家、フランソワ・サガンの…」
いきなり、つまずいたように感じた三四郎は、ますます動揺したように質問した。
「好きな歌とか映画とかは…?」
「『ベンハー』すごかったわ! …歌では、チューリップの『サボテンの花』が好き…」
「好きなタイプのタレントとかは…?」
「クリスミッチャムとか…」
「…?」
「貴乃花もファンだわ」
「あぁ、貴乃花かぁ」
ここまでの会話の中で、三四郎が知ってたのは貴乃花だけであった。
しかも、それですら、話をつなげていく術
だから、二人の話には発展的つながりのある呼吸はなく、
不自然で一方的な尋問
時には、自然な沈黙が若い二人には貴重な時間になるということを、
今の三四郎には全く知る由
それどころか、三四郎は沈黙が続く苦痛に耐えかねて、何か喋
実は、三四郎は、どうやったら一度でもいいから彼女と二人だけでデートできるだろうかと、
そこにばかり必死に気を配
今、考えてみると、「じゃぁ、さよなら…」なんて言って別れてしまうと、この後が続かないじゃないか…
それに、もし仮に、今後もつき合っていける脈があるとすれば、また会う約束をしないと、
彼女はもう会いたくないのかと思うだろうし、また改めて誘う機会などそう簡単にはないだろう。
どうすればいいんだ…
折角
三四郎は、あまりの拙
自分のこの暗さと小心さと優柔不断さはいったいなんなんだ… まあ、でも、
今更
ところが、ここで三四郎の頭には、まるで魔が差したように突然言葉が閃
「来週、また会えないだろうか?」
「来週からバイトが忙しくって、ちょっと無理だわ…」
「…ぼくのこと、どう思ってる…」
「おとなしくて、ニコニコして…、いい人だと思うけど…、よく分からない…」
「じゃあ、つき合ってもらえないだろうか…」
「私のことも誤解してるかもしれないし、…友達としてなら…」
出口を一つひとつ塞
もはや、三四郎にとっては、ギブアップであった。
これ以上何を言っていいか、どう行動していけばいいか分からなくなった。
ただ、こんな自己中心的で自爆テロのようなやり方が真っ当
三四郎が勝手に想像するところでは、こんな自分の独り相撲のような想いに対して、一度は二人だけで会って、
はっきりと伝えなければならないという涼子のやさしさなのだろうと受け取った。
そして、三四郎には刑務所から釈放されたような開放感があった。本来、
「自分にはこの女
しかし、いずれにせよ、最初で最後のこのデートの数時間が、三四郎にとっては後々まで、
二人だけの夢のような美しい思い出として焼きついたのである。
人生とは不思議なものである。もし、最初から順風満帆
その後の三四郎は、サガンの『悲しみよこんにちは』を読み、映画『ベンハー』を観て、
チューリップの『サボテンの花』を聴いて、クリスミッチャムとは誰なのかと尋ねていたようである…
誰かと映画談義になると、「『ベンハー』はおもしろい映画だ…」と熱っぽく語り、
カラオケを歌う機会などには、何食わぬ顔で『サボテンの花』を歌っていた…

