「どうぞ、藍染隊長」

「やぁ、ありがとう」

雛森から差し出された銚子に、藍染は温和な笑みで杯を差し出した。

ここは瀞霊廷でも由緒ある宿で、その趣向を凝らした洗練された食事処の個室で、藍染、雛森、市丸、冬獅郎

の四人は、厳選された料理を前にして、和やかな雰囲気で会食を始めようとしていた。

「シロちゃん、シロちゃん」

自分の横に座った雛森が、ツンツンと肘を突付いてくるのに、冬獅郎は煩そうに眉を顰めた。

「なんだよ、桃」

「シロちゃんも市丸副隊長にお酌しなきゃダメじゃない。待ってらっしゃるわよ」

そう云われて、始めて自分の前に座っている市丸を見れば、確かに杯を手にしたまま、何やら言いたげではあ

る。

「なんで俺があいつに酌をしなきゃなんねぇんだ」

「なんでって、もうっ!」

冬獅郎が動く気がないと知った雛森は、自分が市丸に酌をすべく、もう一度銚子に手を伸ばそうとしたが、それ

よりも早く、市丸の横に座っていた藍染が市丸に酒を勧めていた。

「ギン」

「・・・おおきに、藍染隊長」

自分に酌をしてもらった市丸が、最初の一杯を綺麗に飲み干すのを待ち、藍染が皆ににっこりと笑い掛けた。

「この宿には二泊する予定で部屋も二部屋取ってあるんだ。最初の一日目、つまり今夜は僕と雛森君、ギンと

冬獅郎が。明日は僕とギン、雛森君と冬獅郎が相部屋で構わないかい?」

「勿論や」

「はい」

ギンが快諾し、雛森が嬉しそうに頬を紅潮させ、冬獅郎は承知の意味を込めて軽く頷いた。

元々、今回のこの四人での小旅行も、日頃の疲れを温泉で癒す目的の他に、市丸の誕生日記念も兼ねての事

であった為、雛森の懇願に押し切られて渋々付いて来た冬獅郎には、大した拘りがなかったのだ。





目に美しく、そして美味しい料理を堪能した四人は、二組に分かれて、おのおのの離れへと場を移した。

この宿は付かず、離れずのきめ細かいサービスと、最高級とされる料理が自慢であり、部屋数も僅か十室しか

なく、それぞれが露天風呂を有する離れの座敷となっていた。

「美味しいお料理やったなぁ。お腹いっぱいや」

「そうだな」

上機嫌な市丸の後に大人しく従って部屋に入って来た冬獅郎がそっけなく云う。

「シロちゃんはお酒強いなぁ。がばがば飲んではったねぇ」

着ていた着物を脱ぎ、衣文掛けに掛けながらにこにこと話を振ってくる市丸に、自分も浴衣に着替えながら冬獅

郎が眉間に皺を寄せる。

「そう呼ぶのは止めろと以前云った筈だがな」

「え〜〜〜っ。やって、雛森ちゃんはそう呼んでるやん」

「桃は良いんだよ。あんたはダメだ」

「エコヒイキや。・・・そんなら冬獅郎?」

「日番谷と呼べよ」

「ええやん。藍染はんはそう呼んではるんやし。なぁ、一緒にお風呂に入ろう。冬獅郎」

「ヤダね」

吐き捨てるように云いながら、手ぬぐいを持って湯殿に向かう自分の後に、市丸がいそいそと付いて来ても、あ

えて冬獅郎は何も云わなかった。





「ふぅ〜〜〜っ。ええお湯やね」

「・・・あぁ」

湯に浸かり、うっとりと満天の星空を仰ぐ市丸に、相変わらず冬獅郎はそっけない。

「冬獅郎、なぁ、そんな隅っこにおらんと、もう少しボクの傍へおいで」

「俺はここが良い」

手招きする市丸に構わず、露天の湯を囲む縁に身体を預け、半身浴の状態で冬獅郎は翠の瞳を閉ざしている。

そんな相手に対しても市丸の機嫌は損なわれず、冬獅郎の方から来ないのであれば自分がと、湯を掻き分け

る様にしてに近付き、まだ幼い身体をそっと抱きしめた。

「冬獅郎・・・・・」

愛しげに呟き、口付ける。

軽い口付けの後、市丸の舌で丹念に小さな桜いろの唇を愛撫され、強請る様に甘噛みされた冬獅郎は、仕方

なしという風に僅かに唇を開くと、待ちかねたように市丸の舌が口内に入り込み、所狭しとばかりに蹂躙する。

「ん・・・ぁ」

その激しさに冬獅郎が短く喘ぐと、思う様冬獅郎の温かな口内を味わい尽くした市丸が、揚々唇を離し、もう一

度満足気に冬獅郎の身体を抱き締めた。

「あぁ。早く冬獅郎とヤリたいなぁ」

情欲を持て余すように市丸にそう云われ、ただですら子供らしくない冬獅郎の表情が顰められる。

「・・・一度ヌイてやるよ。だから風呂くらいゆっくり入らせろ」

そう云いしな、市丸の股間で揺れているモノに手を伸ばし、強弱を付けて擦り始めた。

「んんっ・・・・・ええわぁ。・・・なぁ、お口でもしてくれへん?」

小さな手での愛撫に飽き足らなくなった市丸がそう強請ると、冬獅郎は素直に湯から立ち上がり、市丸に湯船

の縁石に座るように仕草で示し、市丸はいそいそとそれに従った。

重たげに頭を持ち上げているが、まだ完全に勃起には至ってない市丸の大きなモノを小さな口一杯に含み、冬

獅郎は絶妙な舌使いで市丸を追い上げた。

「あ―――っ・・・もう、イってまう!・・・・・出すで、冬獅郎」

もとより我慢する気のない市丸は、ドクドクと冬獅郎の中に温かな液体を注ぎこんで果てた。

冬獅郎は市丸が吐精し終えるのを待ち、口内に注がれたモノをそのまま湯船の外に吐き出し、湯で口の中を濯

ぎ、それも吐き出した。

「・・・なんやもう、昔は飲んでくれたんに」

「あれはサービスの一環だ。あんたはもう俺の客じゃねぇだろ」

少し不満そうな市丸が唇を尖らせても、冬獅郎はにべにもない。

「まぁええわ。今晩はたっぷり可愛がってあげるな、冬獅郎」

立ち直りの早い市丸に、冬獅郎は呆れたという顔を隠しもしない。

「エロオヤジか、あんた」

「エロ・・・って、ほんま、口が悪いなキミ」

「悪かったな。どうせ俺は流魂街の浮浪児だよ」

「ボクかて流魂街の出やよ」

「知ってる。でも、あんたには高い霊圧があった。今じゃ隊長就任を目前に控えた綾錦を纏った身だ。霊圧のカ

ケラも無いくせに腹だけは減らす俺のようなカタワ者とは違う」

自嘲する冬獅郎に、市丸は掛ける言葉を失う。

確かに冬獅郎は以前は流魂街の片隅で男の袖を引いて食べる物を得ていた。

それが雛森 桃を出会い、共に暮らし始め、その雛森が死神となり、席官の地位を得てからは、雛森を可愛がる

藍染の好意で、藍染の家の召使として瀞霊廷で暮らすようになったのだ。

「冬獅郎・・・あのな・・・」

想い人である冬獅郎の心を思いがけず傷付けてしまった市丸が、なんとか相手を慰めようとするより早く、迷い

を振り切るように、冬獅郎が口を開いた。

「藍染さんが俺を連れて来たのは、今夜あんたの相手をさせる為だってのは承知してる。だから、風呂くらいゆ

っくり浸からせてくれ」

そう云って、再び縁石に寄りかかって瞳を閉ざした冬獅郎に、市丸は小さな声で、しかし、真摯に語りかけた。

「冬獅郎がボクのことを嫌っとるんは知っとる。でも、ボクは冬獅郎が好きやよ」

「・・・それがそもそもの勘違いだ。あんたに言い寄られて落ちない奴は今までいなかったんだろう? それがた

またま俺があんたを撥ねつけたもんだから、新鮮だったのさ。あんたは俺を落すゲームを楽しんでいるだけだ」

「そんなことはない!ボクはキミが好きや!」

「はい。はい。判ったからもう静かにしてくれよ。俺、少し気分が悪いんだ」

そう云った冬獅郎の顔色が思いの他悪い事に、市丸はハッとした。

慌てて湯船の中から小柄な身体を引き上げると、冬獅郎はもう抵抗を示すまでもなくぐったりとしている。

「ちょ、しっかりしい! 冬獅郎」

「・・・・・気持ち悪い」

「・・・もしかしてキミ、お酒が強いんじゃなかったん?」

「俺は流魂街に居たんだぞ。食うのに精一杯で酒なんか殆ど飲んだことねぇよ」

「えええ〜〜〜っ!」

(―――――飲みすぎや!)

市丸は大急ぎで青ざめた冬獅郎を部屋まで運び、上物の絹布団の上に寝かすと、それから吐き気の為に手荒

いを往復する冬獅郎の背を撫ぜたり、水を飲ませたりと、甲斐甲斐しい世話をやいたのだった。





・・・チリリ・・・・・ンンン・・・・・・・リリ・・・・・・・ンン・・・・・

夜半。ようやく、しこたま飲んだ酒気が抜けた冬獅郎が目をさますと、微かな細い音色が聞こえていた。

「・・・・・なんだこの音?」

「水琴窟(すいきんくつ)やよ」

誰に聞くとも無しに口にした問いに、すぐ近くから応えが帰った。

首を横に向ければ、自分のすぐ隣に横臥した格好で、少し心配そうに自分を見ている市丸が居て、冬獅郎をド

キリとさせた。

「気分はどうや?」

「・・・あぁ。もう大丈夫だ。・・・・・世話を掛けたな」

飲んだ分の酒を全て吐き出し、暫らくの間とはいえ、ぐっすりと眠ったおかげで元通りの体調を取り戻した冬獅郎

は、市丸に取りあえずの礼を云った。

日頃から気に喰わない相手ではあるが、迷惑を掛け、かつ介抱してもらったのは事実なのだ。

そんな不承不承、礼を云う冬獅郎に、市丸は「どういたしまして」と笑った。

その笑顔が思いがけない程、優しげに映り、冬獅郎は胸の鼓動を沈める為に、話題を振った。

「―――水琴窟ってなんだ?」

「床下の地下に小さな洞を掘って、そこに置いた水瓶に水滴が落ちると、それが洞に反響してこんなふうに微か

な綺麗な音色に成るんよ」

「へぇ・・・」

「風流な仕掛けやろ」

「そうだな。―――あんたの髪みたいな、美しい銀の音色だな」

思ったまでの感想を素直に口にした冬獅郎に、市丸の紅い瞳が一瞬だが全開した。

「・・・それはおおきに」

すぐに瞳を閉ざした市丸が礼を云うと、冬獅郎はよっこらせとばかりに身体を起こした。

「どうしたん? またお手洗いに行くん?」

「いや。俺はもう大丈夫だからとっとと始めようぜ」

「―――? 始めるって何を?」

「布団の中でヤルことは一つだろ」

あっけらかんという冬獅郎に、市丸の柳眉が寄せられる。

「俺をここに連れて来たのはそれが目的だろ。さっさと始めようぜ」

「・・・・・キミ、まだ体調が万全じゃないやろ」

「平気だ。それに少々なら我慢も出来る。ここまで付いて来て、あんたを満足させなかったら、藍染さんにも申し

訳ないし、桃にも叱られる」

そう云って着ている浴衣を脱ごうとする冬獅郎の手を、市丸の大きな掌が包み込み、遮った。

「なんだ?」

「―――寝よ」

「はぁ?」

「このまま水琴窟の音色を聞きながら、一つの布団で仲良く寝るんや。今日はもうそれでええ」

「・・・でも、そんなんじゃ・・・」

冬獅郎の抗議を遮り、市丸は冬獅郎の布団の中に入り込むと目を閉じた。

微妙だにしなくなった市丸に、冬獅郎は唖然とし、暫らく当惑していたが、「冬獅郎も早く横になり」と云う、市丸

の言葉に、仕方なしに身を横たえた。

そうして暫しの間、二人して水琴窟の美しい音色に耳を傾ける。



―――リリ・・・・・・ン・・・・・リ・・・ンン・・・・

「・・・あんた、ヘンな奴だな。これも俺を落す手なのか?」

「なんとでも云いや。ボクはホンマにキミのことが好きや」

「――――−ふん・・・」

目を閉じたままの受け答え。

銀の音色がいつまでも美しく響いていた。



                                                       了


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水 琴 窟 (すいきんくつ)